ギリシャ神話あれこれ:アキレウス出陣

 
 その夜、トロイア陣営では、アキレウスの姿に誰もが恐れおののいていた。
 聡明なプリュダマスが提案する。アキレウスが復帰したことで戦況はがらりと変わるだろう。ならばこの平原にとどまるよりも、イリオスの都城まで引き上げ、強固な城壁を味方に籠城するほうが得策だろう。と。
 このプリュダマスというのは、トロイアの諸将のなかで唯一と言ってよい知将で、ヘクトルとは同じ夜に誕生し、互いに親しい友人だった。常に正論をもって進言するのだけれど、どういうわけかことごとく反対される。

 このときもヘクトルがプリュダマスの意見を退け、今夜はここにとどまり、明朝船陣に総攻撃をかける、と言い渡す。全軍が歓声を上げて賛同する。
 これは、アテナ神がトロイアの思慮を狂わせたためだった。

 翌朝、テティスがヘファイストスから貰い受けた新しい武具を携えてギリシア船陣に戻ると、それまでパトロクロスの亡骸にすがって泣いていたアキレウスの両眼に憤怒の炎が燃え立った。パトロクロスの屍に、蝿どもが蛆虫を生みつけぬよう、テティスに頼むと、大声を上げながら海辺を闊歩し、全軍を集めてまわる。ディオメデスやオデュッセウス、そして最後に総大将アガメムノンも、槍を杖にして現われる。

 アキレウスは怒りを解き、アガメムノンと和解する。アガメムノンもまた己が非を詫び、改めて莫大な褒美を約束する。そして、ブリセイスの肌には一切触れていない、とあまり意味のない誓いを添えて、ブリセイスをアキレウスのもとへと返す。
 アキレウスの陣屋に戻ったブリセイスは、パトロクロスの遺骸の前にくずおれて嘆くのだった。ああ、私の夫と兄弟たちがアキレウスに殺されたとき、私の悲しみに気づいてくれた、優しかったパトロクロス。あなたまで死んでしまうなんて。と。

 To be continued...

 画像は、G.A.ペッレグリーニ「パトロクロスの亡骸を見つめるアキレウス」。
  ジョヴァンニ・アントニオ・ペッレグリーニ
   (Giovanni Antonio Pellegrini, 1675-1741, Italian)


     Previous / Next

     Bear's Paw -ギリシャ神話あれこれ-
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )