チロルの古都(続々々々々々々々々々)

 
 ムルメルティーアは出てきてくれなかったけれど、その代わり、チロル州の紋章でもあるイヌワシが、すぐ頭上まで飛んできてくれた。太い足で檻をガッシと掴んで(つまり、だだっ広いケージのなかに小ケージがあって、そのなかに人間が入って観察するという仕組み)、私たちを上から覗き込んでいる。イヌワシの眼って、フクロウの眼と同じなのね。

 で、相棒、例によってイヌワシと見つめ合いながら、これ見よがしに両腕を広げてジェスチャーする。するとイヌワシも張り合って、両翼を大きく広げてパフォーマンスしてくれる。食うに困らない動物園の動物たちは、お腹も空いていないし眠たくもないときには、こうやって人間にサービスしてくれる。
 東洋人が変てこりんな挙動で、イヌワシに翼を広げさせているのに気づいて、オーストリア人たちが集まってくる。で、東洋人たちはそそくさと退散する。

 憧れのライチョウもいた。アルプスってライチョウもいるんだ。
 ……と言っても、案内がドイツ語だったので、このときはそれがライチョウだとは自覚していなかったんだけれど。

 動物たちの園の前にへばりついている私に、相棒が言う。
「チマルさんは本当は動物なんだよね。それが、間違って人間に生まれてきてしまったんだよね」
 うん、きっとそうなんだと、自分でも思う。

 亡き友人は私を自然に見立てて、傲慢な人間は自然を理解せず、自然の上に立って自然を支配しようとし、自然を損ない、それでも自然を征服し得ずに、自然を怖れ、最後には自然から見放され、自然からしっぺ返しを食らう、と言った。私を罵って、去っていった人はたくさんいるけれど、彼らは何かしらの権威に囚われている人ばかりだ。
 人間は自然からしっぺ返しを食らう。……地球が悲鳴をあげている、という言葉をよく聞くが、地球は悲鳴などあげてはいない。悲鳴をあげているのは人間たちだ。
 地球が滅ぶわけではない。破壊された環境とは、人類が発達しよい環境であって、だから現環境とともに破滅するのは、人類のほうなのだ。

 だが、現環境が滅びれば、動物たちも滅びるだろう。もし私が間違って人間に生まれてきたのなら、私は、自分が人類という種であることを思い知りながら、それでも人間としての叡知を、動物のために使うことにしよう。そうすることで、自然との共存の道を示すことになるなら、それは未来の子供たちのためだと思うことにしよう。

 イン川に架かるチロル独特の木橋を渡って、駅へと向かう。

 To be continued...

 画像は、インスブルック、イン川に架かる木橋。

     Previous / Next

     Bear's Paw -ドイツ&オーストリア-
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )