バイオリンの里(続々々々々々)

 
 最初の子供たちがそろそろ食べ終える頃を見計らって、シェフがデザートに、パック入りのアイスクリームの籠を持ってきた。隅にある私たちの席のすぐ後ろのサイドテーブルに置く。
 女の子たちはシェフが厨房から出てきたときから、目敏くシェフの動きを追っていたのだが、何かを持ってきたのらしいと知ると、眼をピカッと光らせて、背伸びして籠の中身を見極めようとする。
「あれ、アイス?」
「もしかしてアイス?」
 シェフが籠を置いてテーブルを去った途端に、子供たちがワッ! とデザートを取りに来た。

 山ほどのアイスクリームは、次々となくなっていく。もちろん子供たちは、それぞれ一パックずつしか取っていかないのだけれど。

「これって、子供用じゃないよね。私たちも貰っていいんだよね」
 そう言っている間に、残り少なくなったアイスクリームのパックを一つ、引率の先生らしき大人の女性がヒョイとつまんで持っていこうとした。その様子を眺めていた相棒に気づいて、女性は、悪戯しているのを見つかった子供のような気恥ずかしそうな笑顔を見せる。あら、だって私も食べたいんですもの、と言いたげに。

 さっきの女性がやって来て、話しかけてくる。
「お食事ですのに、さぞうるさかったことでしょうね」
「イッツ・ナチュラル(それが自然ですよ)!」と相棒。
 すると女性は、その通りだわ! というふうに、両手のひらを胸の前で合わせて喜んで、去っていった。

 気がつくと籠のなかには、アイスクリームの最後の一つが残っているだけ。素早くそれを取ったすぐ後に、内気そうな男の子がやって来て、籠のなかを覗き込んだ。
 内心がっかりしてるんだろうなと思って、私が自分たちの分のアイスクリームを差し出すと、男の子は躊躇する。
「でも、それじゃああなた方の分は? 僕が頂くわけには……(多分)」
 私ってこういう、人を思いやる子供には特に弱いんだよね。
 それでも私たち二人、めげずに笑ってアイスクリームを再び差し出すと、男の子も安心して、「ダンケ」と受け取ってくれた。

 笑顔は万国共通。眼を見て微笑むと、心が通じる。

 To be continued...

 画像は、ミッテンヴァルト、山間の牧場。

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     Bear's Paw -ドイツ&オーストリア-
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