九条バトル !! (憲法問題のみならず、人間的なテーマならなんでも大歓迎!!)

憲法論議はいよいよ本番に。自由な掲示板です。憲法問題以外でも、人間的な話題なら何でも大歓迎。是非ひと言 !!!

掌編小説 「日本精神エレジー」   文科系

2019年10月05日 13時03分36秒 | 文芸作品

「貴方、またー? 伊都国から邪馬台国への道筋だとか、倭の五王だとか・・・」
連れ合いのこんな苦情も聞き流して、定年退職後五年ほどの彼、大和朝廷の淵源調べに余念がない。目下の大変な趣味なのだ。梅の花びらが風に流れてくる、広縁の日だまりの中で、いっぱいに資料を広げている真っ最中。
「そんな暇があったら、買い物ぐらいしてきてよ。外食ばっかりするくせにそんなことばっかりやってて」
「まぁそう言うな。俺やお前のルーツ探しなんだよ。農耕民族らしくもうちょっとおっとり構えて、和を持って尊しとなすというようにお願いしたいもんだな」

 この男性の趣味、一寸前まではもう少し下った時代が対象だった。源氏系統の家系図調べに血道を上げていたのだ。初老期に入った男などがよくやるいわゆる先祖調べというやつである。そんな頃のある時には、夫婦でこんな会話が交わされていたものだった。
男「 源氏は質実剛健でいい。平氏はどうもなよなよしていて、いかん」
対してつれあいさん、「質実剛健って、粗野とも言えるでしょう。なよなよしてるって、私たちと違って繊細で上品ということかも知れない。一郎のが貴方よりはるかに清潔だから、貴方も清潔にしてないと、孫に嫌われるわよ」
 こんな夫に業を煮やした奥さん、ある日、下調べを首尾良く終えて、一計を案じた。
「一郎の奥さんの家系を教えてもらったんだけど、どうも平氏らしいわよ」
男「いやいやDNAは男で伝わるから、全く問題はない。『世界にも得難い天皇制』は男で繋がっとるん だ。何にも知らん奴だな」
妻「どうせ先祖のあっちこっちで、源氏も平氏もごちゃごちゃになったに決まってるわよ。孫たちには男性の一郎のが大事だってことにも、昔みたいにはならないしさ」
 こんな日、一応の反論を男は試みてはみたものの、彼の『研究』がいつしか大和朝廷関連へと移って行ったという出来事があったのだった。

 広縁に桜の花びらが流れてくるころのある日曜日、この夫婦の会話はこんな風に変わった。
「馬鹿ねー、南方系でも、北方系でも、どうせ先祖は同じだわよ」
「お前こそ、馬鹿言え。ポリネシアとモンゴルは全く違うぞ。小錦と朝青龍のようなもんだ。小錦のが  おっとりしとるかな。朝青龍はやっぱり騎馬民族だな。ちょっと猛々しい所がある。やっぱり、伝統と習慣というやつなんだな」
「おっとりしたモンゴルさんも、ポリネシアさんで猛々しい方もいらっしゃるでしょう。猛々しいとか、おっとりしたとかが何を指すのかも難しいし、きちんと定義してもそれと違う面も一緒に持ってるという人もいっぱいいるわよ。二重人格なんてのもあるしさ」
 ところでこの日は仲裁者がいた。長男の一郎である。読んでいた新聞を脇にずらして、おだやかに口を挟む。
一郎「母さんが正しいと思うな。そもそもなんで、南方、北方と分けた時点から始めるの」
男「自分にどんな『伝統や習慣』が植え付けられているかはやっぱり大事だろう。自分探しというやつだ」
一郎「世界の現世人類すべての先祖は、同じアフリカの一人の女性だという学説が有力みたいだよ。ミトコンドリアDNAの分析なんだけど、仮にイブという名前をつけておくと、このイブさんは二十万年から十二万年ほど前にサハラ以南の東アフリカで生まれた人らしい。まーアダムのお相手イヴとかイザナギの奥さんイザナミみたいなもんかな。自分探しやるなら、そこぐらいから初めて欲しいな」
男「えーっつ、たった一人の女? そのイブ・・、さんって、一体どんな人だったのかね?」
一郎「二本脚で歩いて、手を使ってみんなで一緒に働いてて、そこから言語を持つことができて、ちょっと心のようなものがあったと、まぁそんなところかな」
男、「心のようなもんってどんなもんよ?」
一郎「昔のことをちょっと思い出して、ぼんやりとかも知れないけどそれを振り返ることができて、それを将来に生かすのね。ネアンデルタール人とは別種だけど、生きていた時代が重なっているネアンデルタール人のように、仲間が死んだら悲しくって、葬式もやったかも知れない。家族愛もあっただろうね。右手が子どもほどに萎縮したままで四十歳まで生きたネアンデルタール人の化石もイラクから出たからね。こういう人が当時の平均年齢より長く生きられた。家族愛があったという証拠になるんだってさ」
妻「源氏だとか平氏だとか、農耕民族対狩猟民族だとか、南方系と北方系だとか、男はホントに自分の敵を探し出してきてはケンカするのが好きなんだから。イブさんが泣くわよホントに!」
男「そんな話は女が世間を知らんから言うことだ。『一歩家を出れば、男には七人の敵』、この厳しい国際情勢じゃ、誰が味方で誰が敵かをきちんと見極めんと、孫たちが生き残ってはいけんのだ。そもそも俺はなー、遺言を残すつもりで勉強しとるのに、女が横からごちゃごちゃ言うな。親心も分からん奴だ!」

 それから一ヶ月ほどたったある日曜日、一郎がふらりと訪ねてきた。いそいそと出された茶などを三人で啜りながら、意を決した感じで話を切り出す。二人っきりの兄妹のもう一方の話を始めた。
「ハナコに頼まれたんだけどさー、付き合ってる男性がいてさー、結婚したいんだって。大学時代の同級生なんだけど、ブラジルからの留学生だった人。どう思う?」
男「ブ、ブラジルっ!! 二世か三世かっ!?!」
一郎「いや、日系じゃないみたい」
男「そ、そんなのっつ、まったくだめだ、許せるはずがない!」
一郎「やっぱりねー。ハナコは諦めないと言ってたよ。絶縁ってことになるのかな」
妻「そんなこと言わずに、一度会ってみましょうよ。あちらの人にもいい人も多いにちがいないし」
男「アメリカから独立しとるとも言えんようなあんな国民、負け犬根性に決まっとる。留学生ならアメリカかぶれかも知れん。美意識も倫理観もこっちと合うわけがないっ!!」
妻「あっちは黒人とかインディオ系とかメスティーソとかいろいろいらっしゃるでしょう?どういう方?」
一郎「全くポルトガル系みたいだよ。すると父さんの嫌いな、白人、狩猟民族ということだし。やっぱり、まぁ難しいのかなぁ」
妻「私は本人さえ良い人なら、気にしないようにできると思うけど」
一郎「難しいもんだねぇ。二本脚で歩く人類は皆兄弟とは行かんもんかな。日本精神なんて、二本脚精神に宗旨替えすればいいんだよ。言いたくはないけど、天皇大好きもどうかと思ってたんだ」
男「馬鹿もんっ!!日本に生まれた恩恵だけ受けといて、勝手なことを言うな。天皇制否定もおかしい。神道への冒涜にもなるはずだ。マホメットを冒涜したデンマークの新聞は悪いに決まっとる!」
一郎「ドイツのウェルト紙だったかな『西洋では風刺が許されていて、冒涜する権利もある』と言った新聞。これは犯罪とはいえない道徳の問題と言ってるということね。ましてや税金使った一つの制度としての天皇制を否定するのは、誰にでも言えなきゃおかしいよ。国権の主権者が政治思想を表明するという自由の問題ね」
妻「私はその方にお会いしたいわ。今日の所はハナコにそう言っといて。会いもしないなんて、やっぱりイブさんが泣くわよねぇ」 
男「お前がそいつに会うことも、全く許さん! 全くどいつもこいつも、世界を知らんわ、親心が分からんわ、世の中一体どうなっとるんだ!!」
と、男は一升瓶を持ち出してコップになみなみと注ぐと、ぐいっと一杯一気に飲み干すのだった。


(当ブログ06年4月7日に初出。そのちょっと前に所属同人誌に載せたもの)

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要約、中日新聞特集「世界史転換期」   文科系

2019年10月05日 12時16分20秒 | 国際政治・経済・社会問題(国連を含む)
 今日、中日新聞は6面全てを「ベルリンの壁崩壊から30年」に費やしている。1989年11月9日の壁崩壊が91年12月ソ連邦消滅をもたらし、戦後ずっと続いた冷戦体制を終わらせることになった世界史的大事件であった。この記事は、その後30年の今新たな世界史転換点が見えてきたという趣旨を3人の専門家に語らせたものだ。
 
『壁崩壊もそうですが、ネットの普及が世界に大きな影響を及ぼしています。ドイツでもゆがめられた歴史が伝えられ、ヘイトスピーチが増えました。日本で言えば「嫌中」、「嫌韓」みたいなもの。・・・この先、本を読めなくなる人が増えてしまうかもしれない。これもネットと関係していますが、読まないと読めなくなる。すると物の考え方や価値観も変わってきます。文学を通してしかできない種類の歴史理解というものがあると思います。目先の関心だけで決断をするようになっていくと、社会は壊れていってしまうのではないでしょうか』
 と、こう語るのは、多和田葉子。『82年からドイツ在住。93年「犬婿入り」で芥川賞受賞。チューリヒ大学院博士課程〈ドイツ文学〉修了』と紹介されてあった。

『冷戦が終焉した際、西欧や米国は「勝った」と喜びましたが・・・鉄のカーテンを破った主役は東欧の人たち。それなのに、一年もたたず彼らは理想が幻想だと分かってしまった。彼らを待ち受けていたのは西側の新たな壁、格差だったのです。・・・実際には分断と不平等と敵対意識をもたらした。今や世界の三分の一が紛争の中です。・・・今は二、三百年に一度の歴史の転換期です。民主主義の限界、「真実後」という事態に、欧米近代が終焉を迎えつつあるのを感じます。三〇年後には中国やインドが世界経済のトップを占めるという予測があります。しかし、欧米はアジアの国々に追いつかれる前に自壊に向かっている。その表れがトランプであり、ブレグジットです』
 これは、羽場久美子の言葉。『国際政治学者、青山学院大教授・・・専門はEU論、アジアの地域統合、冷戦史研究、民主主義論』とあった。

 もう一人の水野和夫・法政大学教授(経済学者)は,こう語る。
『資本主義は終わりに近づいていると私は考えています。
 資本は効率的な投資先を失いつつあります。そんな中で米国主導で九〇年代から進められたのがグローバリゼーションです。・・・グローバリゼーションとは、お金を自由に動かせるということです。財政的に苦しい国は、容易に外国資本を借りられるようになる。その代わり、貸してくれた国の支配を受けることになります。
 グローバリゼーションは、金融大国が他国を支配し、中産階級を否定するイデオロギーです。ごく少数の富裕層はさらに豊かになり、中間層は没落しました。貧困や格差が各国で深刻化しています。中間層はフランス革命以来、民主主義を支えてきた人たちです。それが下層化した結果、民主主義は壊滅状態にあります。そして、ポピュリズムが台頭してきた。民主主義は危機にひんしています。
 米ソの冷戦終結宣言から三十年、世界は米中の新冷戦構造の中にあります。両国の貿易戦争は世界経済に大きな影響を与えます。米国は中国が世界一の債権国になることを阻止しようとしています。中国に対する貿易赤字が増えることは、中国の債権が増えることを意味します。だから、米国は妥協できない。世界の指導者になりたい中国も引くに引けない。新冷戦構造は二十一世紀半ばまで続くとみています。』
 
 
 こうして、この特集は、冷戦終結という二十世紀世界史最大の転換点から三十年という現在において、文学、政治学、経済学という3人の専門家に新たな「世界史の転換期」が来たと語らせているものである。3者の「明日の世界」を総合すれば、こんな姿になるだろう。
 グローバリゼーションが中間層をなくし、人、国を借金漬けにするなどと荒らして、欧米近代が先頭に立っていた民主主義が自壊しつつ、危機に瀕している。新たな時代の内容は、米中新冷戦の行方次第。それも二十一世紀半ばまであと三十年ほどでアジア台頭の時代が、見えてくるのだろうか?と・・・。
コメント (3)
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