誰だ! 私の固焼き煎餅を袋ごと粉々にしたのは? 分かっているよ、袋の上に何か重いものを落としたんだろぅ。犯人は速やかに名乗り出るように!
ということで、本日の1枚は何もかもぶっ飛ばす爽快盤を――
■Hello Herbie / Oscar Peterson (MPS)
オスカー・ピーターソンのアルバムですが、タイトルどおり、主役はギタリストのハーブ・エリスです。
この人は白人ながら、1953~1957年頃までオスカー・ピータソンのトリオで活躍していた名手で、その後はスタジオ・ミュージシャンとして活動していたのですが、その2人が久々に、そして本格的に共演したのが、このアルバムです。
ちなみにピーターソンのトリオは初期にはドラムレスで、構成メンバーはレイ・ブラウン(b)を相棒に、ギターはバーニー・ケッセル、アービング・アシュビー、そしてハーブ・エリスと変遷し、最終的にはギターを外してドラム入りのピアノトリオになり、それは黄金のトリオとして歴史の一部になったのですが、しかしギター入りのトリオにも捨てがたい魅力がありました。
で、このアルバムは1969年に録音されたもので、メンバーはオスカー・ピーターソン(p)、ハーブ・エリス(g)、サム・ジョーンズ(b)、ボビー・ダーハム(ds) という、歴代ピーターソン・トリオの中では最もイケイケのメンツが揃っていた時期です。
まず初っ端の「Naptown Blues」からパワー全開! この曲はウェス・モンゴメリー(g) のあまりにも凄い名演があるのですが、ハーブ・エリスはピーターソン・トリオの強烈な援護を受けて奮闘します。この人はカントリー・ブルースのリックが得意で、それはロックンロール味も内包したものですが、ここでも、それ風のコード弾きソロを聞かせてくれます。そして続くピーターソンが、やっぱり凄い! このグルーヴ、この爆発的なタッチは本当に神業です。もちろんベースとドラムスの2人、そしてハーブ・エリスも完璧なバックを付けていますから、演奏全体が火山の爆発のようなクライマックスを迎えるのでした。
そして2曲目は一転して安らぎ系スタンダード「Exactly Like You」が、最初、ギターとピアノのデュオして演奏されます。しかしアドリブ・パートからは力強いベースと繊細なドラムスが加わって、ジワジワと盛り上げていきます。
3曲の「Day By Day」も、やはり有名スタンダードですが、ここではボサノバ風に演じられます。しかしピーターソンが全てを超越してあまりにも凄いので、ハーブ・エリスも苦闘気味ではありますが、その白人的な解釈はなかなか繊細で、絶妙なコントラストが醸し出されています。
しかしA面ラストの「Hamp's Blues」はスローなモード風展開から、静謐なテーマが見事に変体させられていく様が鮮やかで、ハーブ・エリスも本領発揮の繊細なブルース・フィーリングをじっくりと聞かせてくれます。
B面に入っては、冒頭の「Blues For H.G.」がド迫力! お約束のハードバップ・ブルースが演じられますが、メンバー全員が快調そのもので、全く楽しい限りです。こういう素直なノリは、当時のジャズ界からは消えていたものでしたから、これが1970年代前半のジャズ喫茶あたりで人気盤になるのは当然で、実際、私はこのアルバムでハーブ・エリスの存在を知ったのですが、ジャケ写や演奏されるフレーズから、最初はカントリーのギタリストだと思っていました。まあ、それは、当らずも遠からじ、だったわけですが♪
そのハーブ・エリスが真髄を聞かせるのが、次の「A Lovely Way To spend An Evening」です。テーマの小粋なメロディをミディアム・テンポでピーターソンと上手く絡みながら奏でるそれは、当に職人技です。ピーターソンがかなり黒っぽいフレーズを出していますが、ハーブ・エリスもそれにはブルース・リックで対抗していますし、早弾きが出ればアグレッシブなコード弾きを披露したりして、この2人のコラボレーションは全く楽しく聴けるのです。そしてハーブ・エリスのアドリブ・ソロは歌心たっぷりにスイングしています。
そして大団円はバカノリの「Seven Come Eleven」です♪ オリジナルはベニー・グッドマン(cl) が天才ギタリストのチャーリー・クリスチャンと共に壮絶な演奏を展開した、プレ・ビバップ的な名演でしたが、それをド迫力のハードバップに翻案したのが、ここでのバージョンで、とにかくバンド全体のスイング感覚が常軌を逸しています。早弾きを要求されるハーブ・エリスのテーマ処理は完璧ですし、アドリブに入っても得意のカントリー系のフレーズを上手く使って盛り上げて行きます。サポートするベースとドラムスも、ひたすらバックに徹するあたりが、逆に凄みがあり、特にボビー・ダーハムは大奮闘しています。もちろんピーターソンは神業のスイング! この境地は誰も到達出来ないと思わせます。
ということで、結論から言うと、聴いていてスカッとするアルバムです。余計な事は考えずに聴いてしまうというか、聴いているうちに、余計な事はどこかに吹っ飛んでしまう、そういう演奏が隅々まで詰まっているのです。特にA面ド頭のピーターソンのイントロからテーマへ入っていく時のリズム的興奮、そこから最後まで一気呵成の名盤♪
久々にジャケ写からネタ元に繋げてありますが、ジャズ喫茶でのリクエストはB面をオススメしておきます。もちろん自宅ではA面からいって下さい。