最近、食い物の事ばっかり書いていますね。そういうモードに私が入っているのですが、ちょっと花鳥風月に近づいた気がして、危なさも感じています。枯れるのは、まだ、早いですよね。
ということで、本日の1枚は――
■Under Paris Skies / Freddie Redd (Futura)
日本にはジャズ喫茶の名盤というがあります。それはまず、入荷枚数の少ない輸入盤で、しかもリーダーが地味で日本のジャズ・マスコミにはあまり登場しない人、もちろん内容が素晴らしくて、日本盤が出ないというブツを指します。
このアルバムもそのひとつで、アメリカの黒人ピアニスト、フレディ・レッドが1971年にフランスで録音したものです。共演の Didier Levallet(p) と Didier Carlier(ds) はフランス人だと思われますが、なかなかグルーヴィなサポートが秀逸です。
フレディ・レッドは1950年代から活躍しているベテランですが、作曲が上手く、仄かにマイナー調で日本人の琴線にふれるオリジナルを多数発表しています。このアルバムも全曲オリジナルですが、これが泣きを含んだイイ曲ばかり♪ しかも本人のピアノがツボを外さないアドリブ・メロディを次々に聞かせてくれます。
タイプ的にはデューク・ジョーダン系ですが、タッチが強く、モード奏法も導入しているのが、このアルバムの時代背景を表しています。つまり暗さと重さ、力強さと哀愁のバランスがとても良く、これが1970年代ジャズの魅力だと思います。
収録曲では、A面ド頭の「Diane I Love You」から哀愁モードのテーマ曲がリスナーの心をワシ掴みにします。フランス人リズム隊のノリも良く、フレディ・レッドのピアノも歌心万点です。
2曲目の「Bleeker Street Blues」では、重くて暗い泣きのテーマを、思わず一緒に口ずさんでしまいます♪ もちろん、アドリブも思わせぶりで最高です。
そしてA面3曲目の「To Bud With Love」は、タイトルどおり、パリで晩年を過ごしたバド・パウエルに捧げたもので、ワルツを基本にしながらも、変化するリズムパターンの中で、ハッとする美メロを弾いてくれるので大好きです。
B面では初っ端の「Thes Heart Is Mine」が情けなさと紙一重の女々しさがあって、これも男心にグッときます。リズム隊の強靭なグルーヴも聴き逃せません。
続く「You」は淡々とした寂しさがたっぷり、そしてラストの「My God Is Love」はアップテンポながら一抹の哀愁が滲み出た名演です。
フレディ・レッドは指が早く動くタイプではありませんが、それを逆手にとったように、ひとつひとつの音に感情をたっぷり込めて弾くスタイルのようです。それがこのアルバムでは最高に良く記録されていて、ジャズ喫茶の暗い空間で聴くと、その場の空気が重くジャズに偏っていく瞬間が体験出来ました。
これは冒頭に書いたように、入荷枚数が少なかったことが「吉」と出た好例で、その後、何年にもわたって、思い出したように輸入盤店に入荷した時には、奪い合いという始末でした。
それが現在、CD復刻され、ついに万人の名盤になろうとしていますので、哀愁系ピアノ・ジャズが好きな皆様にはオススメです。
あっ、枯れたというか、シブイ名盤を出してしまった……。