すっかり仕事に翻弄されて……。
本日はグチをタレそうなので、このアルバムで――
■Ease It / Rocy Boyd (Jazztime)
所謂「幻の名盤」とされていた1枚です。
それが確か1976年頃に我国で復刻された時は、かなりの大騒ぎになったと記憶しています。
尤もその時には、例の決定的「幻の名盤」というウォルター・ビショップの「スピーク・ロウ」が一緒に再発された余波だったのかもしれません。
というのも、このアルバムにはウォルター・ビショップが参加しており、しかも前述した「スピーク・ロウ」と同日のセッションだと噂されているからです!
ちなみに2つのアルバムは同じレーベルで作られていますからねぇ~。一度でもウォルター・ビショップの「スピーク・ロウ」を聴いたジャズ者ならば、どうしてもこれを聴かずにはいられないというわけです。
そして肝心のリーダー、ロッキー・ボイドという黒人テナーサックス奏者が、ほとんど無名に近い存在でありながら、共演者が豪華絢爛なのです。
録音は1961年2月、メンバーはロッキー・ボイド(ts) 以下、ケニー・ドーハム(tp)、ウォルター・ビショップ(p)、ロン・カーター(b)、ピート・ラロッカ(ds) という実力者揃いですが、わざわざジャケットには「Introducing The Rocky Boyd Quintet」と記されているほどです――
A-1 Avars
ロッキー・ボイドが作曲したテンションの高いパードバップ! ジャズ者にとってはブルー・ミッチェル(tp) の人気盤「ブルース・ムーズ(Riverside)」のA面2曲目に入っていた名演として、既にお馴染みでしょう。
その所為でしょうか、とにかくケニー・ドーハムが全くイブシ銀の素晴らしいアドリブを聞かせてくれます。また躍動的なリズム隊も最高で、ウォルター・ビショップはアドリブパートでもアタックの強いノリとファンキーな歌心、さらにはモード色に染まった伴奏まで、非常に魅力的です。
肝心のロッキー・ボイドは、やはりモード系のアドリブに撤しているの雰囲気ですが、ちょっとハンク・モブレーを思わせるところが憎めません。
A-2 Stella By Starlight
お馴染みの有名スタンダードを定石どおりのバラード演奏に仕立てていますが、ロッキー・ボイドの素直なテーマメロディの吹奏に好感が持てます。かなり硬派な音色が魅力的なんですねぇ~♪ このあたりはジョン・コルトレーンに通じる雰囲気があります。
またケニー・ドーハムが絶妙な思わせぶりで、ベテランの貫禄を聞かせてくれます。かなり自由度の高いリズム隊の伴奏も要注意でしょう。ストレートな演奏も、それゆえに魅力が倍増したと思います。
A-3 Why Not
さて、これが今もって問題視される演奏です。
なんとロッキー・ボイドのオリジナルとされながら、クレジットはピート・ラロッカ! しかもテーマメロディはジョン・コルトレーンで有名な「Impressions」ですからねぇ! 実はこの曲もディヴ・パイク(vib) の「パイクス・ピーク(Epic)」で録音されていますが、その時のタイトルは「Why Not」ですから、話が拗れます。
このあたりの事情については、ここに書いていますが、それはそれとして、このクインテットの演奏も捨てがたい魅力に溢れています。ちょっとイナタイ、絶妙なノリがクセになるんですねぇ~♪
B-1 Ease It
これまたジャズ者には聴いたことがある曲でしょう。ポール・チェンバース(b) の名盤「ゴー(Vee Jay)」に入っていたハードバップのブルースですから、アドリブ先発のケニー・ドーハムが本領発揮! グルーヴィで緊張感に満ちたリズム隊も見事の一言です。
しかしロッキー・ボイドが新しい事をやろうとしているんでしょうか、ちょっとハズし気味なスタートが??? ただし途中から目が覚めたようにハッスルしていくあたりが、モダンジャズ黄金期の真髄かもしれません。実に楽しくなっていきます。
そしてウォルター・ビショップのファンキーな味わい、鋭いツッコミが烈しいロン・カーターのウォーキングベース、さらに絶好調のピート・ラロッカが演奏全体をグイグイとリードしている感じです。
B-2 Samba De Orfeu / オルフェのサンバ
有名なジャズサンバですが、ラテンビートよりはジャズビートを優先させた演奏になっています。
まずテーマメロディを素朴に吹奏するロッキー・ボイドが、もうイモ寸前の泣き笑いです。しかし助っ人に入るケニー・ドーハムが実に味わい深いですねぇ~♪ 流石だと思います。
リズム隊も相変わらずイケイケの姿勢を崩していませんし、それゆえにロッキー・ボイドも開き直ったようにハンク・モブレー風味のアドリブを聞かせてくれますから、結果オーライ……。
演奏時間が短くて良かった、というのが本音です。
B-3 West 42nd Street
オーラスは典型的なハードバップでハッピーエンドを狙ったのでしょうか、刺激的なリズム隊にリードされたかのような楽しい演奏になっています。
あぁ、ピート・ラロッカが実に良いですねぇ。ウォルター・ビショップも独特のタッチが冴えていますから、こういうリズム隊だけのパートになるとハードバッブから一歩進んだ空気が流れて、油断なりません。
ということで、全篇に躍動的なリズム隊が大活躍した楽しいアルバムです。ロン・カーターも存在感がありますし、ピート・ラロッカが素晴らしいかぎり! もちろん、お目当てのウォルター・ビショップも奮闘しています。
それとケニー・ドーハムの安定した演奏は、スルリもちゃ~んとあるベテランの味わいでしょう。
肝心のロッキー・ボイドは、結論から言えば、これ1枚だけで消えてしまった幻のプレイヤーなんですが、作曲も上手いあたりはハンク・モブレー系の貴重な存在だったのでしょうか……?
ウォルター・ビシップ目当てで買って正解とは言え、いつまでも気になるロッキー・ボイドは、いつの日か未発表レコーディングが出て欲しいひとりです。
ちなみにCD化された時は別テイクが入っていたらしいので、そのうち買ってみようと思ってはいるのですが……。