本日は実家にて自分の時間が持てたという、なかなか贅沢な1日でした。
そこでレコード棚を整理しつつ、ネタを探していると、久々に封印しているボーカル物に手が伸びてしまいました。けっこうジャケットを眺めてしまうんですよ。
そこで――
■Anita O'Day Sins The Winners (Verve)
アニタ・オディは説明不要のジャズ歌手ですが、あえてモダンジャズ歌手と言っても許されるほど、フェイクが上手くてグルーヴィな歌いまわしに魅力があります。
このアルバムは、そうした良さを活かそうと企画されたのでしょうか。収録曲は全てが有名ジャズメンの十八番ばかりで、中には正式な歌詞がついていないモダンジャズオリジナルも選ばれているほどです――
A-1 Take The‘A’Train / Duke Ellington
A-2 Tenderly / Oscar Peterson
A-3 Interlude (Night In Tunisia) / Dizzy Gillespie
A-4 Four / Miles Davis
A-5 Early Autumn / Stan Getz
A-6 Four Brother / Woody Herman
B-1 Sing, Sing, Sing / Gene Krupa And Benny Goodman
B-2 My Funny Valintine / Gerry Mulliang
B-3 Frenesi / Artie Shaw
B-4 Body And Soul / Coleman Hawkins
B-5 Waht's Your Story, Mornig Glory / Jimmie Lunceford
B-6 Peanut Vendor / Stan Kenton
――ジャケットには、上記の演目の後に「The Winner」と称して当りを取ったミュージシャンや楽団名が記載されています。つまり、ある種のトリビュート企画盤として聴くのが楽しいのかもしれません。
録音は1958年4月2&3日、演奏はサム・ノート(tp)、ボブ・エネボルゼン(tb)、レニー・ニーハウ(as)、バド・シャンク(as,fl)、リッチー・カミューカ(ts,cl)、ビル・パーキンス(ts,cl)、マーティ・ペイチ(p)、メル・ルイス(ds) といった西海岸派の名手達を中核としたオーケストラが付いていて、アレンジはA面がマーティ・ペイチ、B面がラッセル・ガルシアが担当しています。
主役のアニタ・オディの歌唱は、全く素晴らしいの一言で、時期的にはお洒落なフィーリングを見せつけた例の傑作映画「真夏の夜のジャズ」の直前だけに、全盛期の余裕をも漂います。
特に「Four Brother」ではオリジナル演奏の合奏部分をスキャットだけで表現し、アドリブパートではソロ楽器奏者と対等に渡り合う凄みを聞かせてくれますし、「Night In Tunisia」での狂熱的な歌唱も見事だと思います。
また「Sing, Sing, Sing」では冴えたスキャットと楽し過ぎるノリが最高で、オリジナル演奏と聞き比べるのも一興でしょう。軽妙なスイング感が楽しめる「Frenesi」も実に良い雰囲気です。
そして「Body And Soul」ではビリー・ホリディからの影響をモロ出しにして、二重のトリビュート♪ さらに「Peanut Vendor」はアニタ・オデイが雇われていたスタン・ケントン楽団に捧げられたのでしょうが、なんとなくジューン・クリスティへのライバル心も感じられるような雰囲気がニクイところかもしれません。
それとスローな歌唱では「Tenderly」や「Early Autumn」が、しっとり感と思わせぶりで申し分ありませんが、個人的には「My Funny Valintine」の姐御っぽい歌い方が好きでたまりません。
気になるアレンジャーの違いについては、ストレートに西海岸風なマーティ・ペイチに対し重厚で膨らみのあるラッセル・ガルシアという事で、好き嫌いが分かれるかもしれませんが、アニタ・オディの見事な歌唱がありますから、それほど問題にはならないでしょう。トリビュートしたミュージシャン各々のツボを捕らえた遊び心も楽しいですねぇ~♪ 機会があれば、それらのオリジナル演奏も聞いてみて下さいませ。
で、最後になりましたが、掲載したジャケットはオリジナルではないでしょう。出回っているブツはマイクの前で熱唱しているアニタ・オディが写っているはずです。しかし私はこのポートレートが気に入って、所謂ジャケ買いしてしまった1枚というわけです。
全体としてはモダンジャズのバリバリ感よりは、ライト感覚を大切しているので、ちょっと肩透かしの雰囲気もあるんですが、力みの無いところが逆に凄いんじゃないでしょうか。