OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

白人ハードバップ派閥

2007-09-15 18:14:23 | Weblog

巷では、とんでもない坊ちゃんの所為で、またまた派閥だとか云々言われ始めましたが、趣味や志を同じくする者が集うのは、世の常でしょう。どんな世界にだってサークルというものがあって当たり前だと思います。

本日はそんな1枚を――

The Jon Eardley Seven (Prestige)

このアルバムの主役、ジョン・アードレイは白人トランペッターで、今日では忘れられた存在かもしれませんが、1950年代はバリバリの活動をしていました。

特にジェリー・マリガン(bs) のバンドレギュラーとして抜擢された1950年代後半には、名盤認定されている何枚ものアルバムセッションに参加しています。それは前任者がチェット・ベイカー(tp) だったというプレッシャーがあっての事だと思えば、その実力は言わずもがなでしょう。

さて、このアルバムは、そうした時期に作られたリーダー盤で、録音は1956年1月13日、メンバーはジョン・アードレイ(tp)、ミルト・ゴールド(tb)、フィル・ウッズ(as)、ズート・シムズ(ts)、ジョージ・サイラン(p)、テディ・コティック(b)、ニック・スタビュラス(ds) という、オール白人の味わい深いメンバーが集っています。

当時、彼等は皆、ニューヨークを中心に活動していたらしく、歴史的には黒人主導のハードバップが勃興していた事から、ここでもその流れに沿った演奏が聞かれます。

ただし、どこかしら西海岸風のアレンジも捨てきれていません。そのあたりを「知的」と感じるのは、十人十色の感想でしょう。

メンバー相互の関係で言えば、ジョン・アードレイとズート・シムズはジェリー・マリガンのバンドをはじめ、共演することが多く、またフィル・ウッズとリズム隊の3人はジョージ・ウォーリントン(p) のバンドからフィル・ウッズのリーダーバンドへ続く盟友達です。さらにミルト・ゴールドはビックバンドやスタジオの仕事で、彼等との繋がりも多かった隠れ名手というわけで、見事な白人サークルが形成された成果が、このアルバムで楽しめます――

A-1 Leap Year
 ジョージ・サイランが書いた知的ハードバップの傑作曲です。下世話な勢いがあるリズム隊も絶妙のアクセントで、実に素晴らしいですねぇ♪
 アドリブパートでは先発のズート・シムズがグルーヴィな名演! 続くフィル・ウッズも情熱の真剣勝負です。しかしジョージ・サイランが如何にも白人らしい変形セロニアス・モンク風なので??? まあ、それをブッ飛ばすのがミルト・ゴールドのブリブリのトロンボーンという仕掛けがあるのですが……。
 そして最後に登場するのがジョン・アードレイの溌剌としたトランペット♪ しかし、やや物足りないと思うのは贅沢でしょうか。周りが良すぎるんですよねぇ~。
 全体ではキメのリフも鮮やかですし、メリハリの効いたリズム隊の好演が光ます。

A-2 There's No You
 ジョン・アードレイの味わい深いトランペットが堪能出来るバラード演奏で、重厚なアレンジとの相性もバッチリ♪ 実に素晴らしい歌いまわし、歌心と落ち着いた音色の妙が最高です♪
 ジョージ・サイランの伴奏も地味ながら、本当に上手いと思いますし、フィル・ウッズのアドリブも抑制された歌心があって、感度良好です。
 ちなみに曲はスタンダードだと思いますが、なかなか素敵なメロディ♪ このバージョンで気になる曲となりました。

A-3 On The Minute
 ニック・スタビュラスのドラムスが導く溌剌ハードバップで、もちろん作曲は主役のジョン・アードレイです。
 アドリブパートでは、いきなりズート・シムズが素晴らしすぎる快演! 俗に「1956年物」と呼ばれるほど、この年のズート・シムズは快調でしたが、ここにまたひとつ、それが実証されたというわけです。
 そして肝心のジョン・アードレイも負けじと熱演! 明るい音色とフレーズの突き抜けた感じが、たまりません。続くフィル・ウッズの燃える青春のような輝きも良いですねぇ~♪ 背後を彩るリフの雰囲気といい、まさに白人ハードバップ最高の瞬間が楽しめます。
 それとミルト・ゴールドのモゴモゴしたトロンボーンが、強力リズム隊と作り出す違和感が、これまた素敵です。こういうノリも、有り、なんですねぇ。これがジャズの面白さでしょうか。
 クライマックスで炸裂するズート対ウッズの激突も熱いです!

B-1 Ladders
 これもジョン・アードレイが書いた、東西折衷のようなアップテンポ曲で、凝っていながら明快なアレンジが痛快です。
 アドリブパートの先発はジョン・アードレイながら、やはり次に登場するズート・シムズに耳を奪われます。スバリ、絶好調なんです♪
 それとホノボノとしたミルト・ゴールド、ドライブしまくるフィル・ウッズの対比も面白いですねぇ~♪ クライマックスでのホーン陣4人の対決が短くて物足りないのが、欠点でしょうか。

B-2 Koo Koo
 白人ながら重たい雰囲気のリズム隊がリードするミディアムテンポのハードバップですから、アドリブ先発のズート・シムズが本領発揮! 実にグルーヴィなノリ、ドライブ感満点のフレーズの連なりは流石だと思います。
 するとジョン・アードレイはマイルス・デイビス風に吹き始め、途中からクラーク・テリー調の駆け足フレーズを披露するという、ニクイ演出がたまりません。もちろん自分の持ち味としての仕掛けでしょう。
 またタメの利いた「ウッズ節」で押し切るフィル・ウッズ、ファンキー味を滲ませたジョージ・サイランも好演だと思いますが、ラストテーマの雰囲気の良さに脱帽の演奏です。

B-3 Eard's Word
 オーラスはフィル・ウッズが書いた軽快なハードバップですが、例によって4管を活かしたアレンジが痛快です。
 アドリブ先発はジョン・アードレイですが、ちょっと物分りが良すぎるあたりに勿体無いさを感じます……。ミルト・ゴールドのモゴモゴ節も些か精彩がありません。
 しかしズート・シムズとフィル・ウッズの頑張りは流石です。バックから襲いかかってくるホーンアンサンブルも良い感じ♪

ということで、日頃から黒人系ばっかり聴いていると物足りない感じの演奏ばかりなんですが、こういう白人サークルでもハードバップが追及されていた当時の熱気は、充分に楽しめます。

それは、ちょっと目立たないながらも、安定感があってメリハリの効いたリズム隊の存在が聞き逃せないところで、特にテディ・コティック&ニック・スタビュラスのコンビは、このアルバム以外でも多くのセッションを残していますから、もっと評価されてもいいのでは……?

なにか1曲といえば、断然「On The Minute」が素晴らしいです。

コメント
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