OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

1958年の濃密セッション

2007-09-13 16:05:51 | Weblog

いやはやなんともの気分が続きます。

なんと総理大臣が辞職した翌日に入院……! 愕いたことに故国に逃げ帰ったバカ横綱も治療開始というのですから、類は友を呼ぶのでしょうか? そうは思いたくありませんがねぇ。

ということで、本日は濃密なこれを――

The Complete Mainstream 1958 Sessions / John Coltrane (LHJ)

似たようなメンバーで一気に録音されるセッションを誰が名付けたか、我国のジャズマスコミでは「マラソンセッション」と呼んでいますが、それが数枚のLPとなって発売されると後がやっかいです。

もちろん個々の作品には、それなりに聞き応えがありますし、ちゃんとしたコンセプトで仕立てられたアルバムには、名盤も少なくありません。

ところがファン心理としては、それらの演奏が好きであればあるほど、今度は録音順に聴きたくなるのが因果なところです。

さて本日ご紹介するのは、ジョン・コルトレーン名義の作品になっていますが、その実態は黒人音楽の名門レーベル「サボイ」が1958年に行ったハードバップの隠れ人気セッションを纏めた2枚組CDです。

もちろん当時も、そして今日も、ジョン・コルトレーンという偉大なサックス奏者を録音していたという価値感が強いわけですが、名目はウイルバー・ハーディンという、些か地味なトランペッターをリーダーとしているところが味わい深いのです。

この人はトランペッターというよりも、業界ではフルューゲルホーンの名手として定評があったらしく、デトロイト周辺で活動していたところをトミー・フラナガンやジョン・コルトレーンに進められてニューヨークに出てきたのが、1958年3月頃だと言われています。

そして忽ちレコーディング契約も出来て行われたのが、本日ご紹介のCDに纏めれた3回のセッションというわけですが、前述のような事情からジョン・コルトレーンやトミー・フラナガンの全面バックアップがあったことは容易に推察出来ますし、実際、この2人がセッションでは大活躍しているのですから、ハードバップの名演が生み出されたのは言わずもがなです。

ちなみにサボイから出たジョン・コルトレーン絡みのアルバムとしては「メインストリーム1958」「ジャズ・ウェイ・アウト」「タンガニカ・ストラット」の3枚がリアルタイムで発表されていましたが、1970年代に入ってからは、未発表テイク&曲が発掘されたことにより、「ダイヤル・アフリカ」「ゴールド・コースト」「カウントダウン」というアルバムに再編集されています。

もちろんこれはジョン・コルトレーンという巨匠が参加していたが故の企画発売なんでしょうが、とにかく全ての演奏がモダンジャズ全盛期の勢いにあふれているという優れものでした。

つまり今回の復刻は、その6種のアルバムをあらためてセッション毎に纏めなおしたブツというわけです――

☆1958年3月13日録音
 ウイルバー・ハーディンがニューヨークに出てきた直後のセッションかと思われます。メンバーはウイルバー・ハーディン(tp,flh) 以下、ジョン・コルトレーン(ts)、トミー・フラナガン(p)、ダグ・ワトキンス(b)、ルイス・ヘイズ(ds) という豪華クインテットです。
 CD 1 01 Well's Fargo / Mainstream 1958
 CD 1 02 West 42nd Street / Mainstream 1958
 CD 1 03 E.F.F.P.H. / Mainstream 1958
 CD 1 04 Rhodamagnetics / Mainstream 1958
 CD 1 05 Snuffy / Mainstream 1958
 CD 1 06 Countdown #2 / Countdown
 CD 1 07 Well's Fargo (alternate) / Countdown
 CD 1 08 Countdown #1 / Countdown
 CD 1 09 Rhodamagnetics (alternate) / Countdown
 上記の演目では最初の5曲が「メインストリーム1958」というアルバムに纏められ、リアルタイムで発売されましたが、これはもう、ハードバップの傑作盤として広く認知されています。詳しい内容については以前に拙ブロクで取上げましたので割愛しますが、その原動力は繊細にして豪胆なリズム隊の素晴らしさだと思います。
 ですから後半4曲のオクラ入り演奏だって、悪いわけがありませんねっ♪ まず「Well's Fargo」と「Rhodamagnetics」の2曲は別テイクとされているだけで、本テイクと遜色無し! まあ、若干、ホーン陣に迷いがあるかなぁ……、という雰囲気ですが、安定感抜群のリズム隊が絶好調ですから、これはこれでハードバップの真髄が存分に楽しめます。
 また気になる完全未発表だった「Countdown」は、ジョン・コルトレーンが翌年5月に吹き込んだ名盤「ジャイアント・ステップス(Atlantic)」に収録の同曲とは完全に別物で、もちろんこちらは痛快なハードバップ! 2つのテイクではイントロが大きく異なり、演奏スピードも違いますが、どちらかといえば「#2」に軍配が上がるでしょうか。まあ、これは十人十色の感想だと思います。

☆1958年5月13日録音
 メンバーはウイルバー・ハーディン(tp,flh) とジョン・コルトレーン(ts) に加えてカーティス・フラー(tb)、ハワード・ウイリアムス(p)、アル・ジャクソン(b)、アート・テイラー(ds) が参加した3管セッション♪ もちろん素晴らしいハードバップが展開されています。
 CD 2 01 B.J. / Tanganyika Strut
 CD 2 02 Anedac / Tanganyika Strut
 CD 2 03 Once In A While / Tanganyika Strut
 CD 2 08 B.J. (alternate #1) / Gold Coast
 CD 2 09 B.J. (alternate #2) / Dial Africa
 まず初っ端の「B.J.」が元気溌剌のハードバップ! 3管で合奏されるテーマとリズム隊の勢いの良さが、たまりません♪ アドリブパートでは、もちろんジョン・コルトレーンが完成間近のシーツ・オブ・サウンドで大奮闘していますが、カーティス・フラーも良い味出しまくりですし、ウルイバー・ハーディンはハスキーな魅力が全開です。もちろん2つの別テイクも全く遜色がありません。
 リズム隊ではピアノのハワード・ウイリアムスが、ちょっとビビッてしまった雰囲気ですが、ベースのアル・ジャクソンが必死の熱演で好感が持てます。
 こうしたムードは続く「Anedac」でも楽しめますが、このセッションの白眉は「Once In A While」です。ヘッドアレンジも嫌味がありませんし、なによりもウイルバー・ハーディンが吹奏するテーマメロディの素直さが最高♪ 穏やかなテンポを活かしきった大名演だと思います。
 またカーティス・フラーもハスキーな音色がベストマッチの大名演♪ じっくりと歌心を醸し出すアドリブは何度聴いても飽きませんし、ジョン・コルトレーンはハードボイルドな音色の魅力を堪能させてくれるのでした。

☆1958年6月29日録音
 前回のセッションからピアニストがトミー・フラナガンに交代していますが、その理由は言わずもがなでしょう。
 CD 2 04 Dial Africa / Jazz Way Out
 CD 2 05 Oomba / Jazz Way Out
 CD 2 06 Gold Coast / Jazz Way Out
 CD 2 07 Tanganyika Strut / Tanganyika Strut
 CD 2 10 Dial Africa (alternate) / Gold Coast
 上記の演目はハードバップを基調としていますが、トミー・フラナガンが中心となったリズム隊に緊張感がありますので、モード手法も感じさせる新鮮な響きが楽しめます。
 まず「Dial Africa」ではミディアムテンポでクールなウイルバー・ハーディンに対し、シーツ・オブ・サウンドを炸裂させて対抗するジョン・コルトレーンが圧倒的! 淡々としたリズム隊の存在から、なんとなくマイルス・デイビスの「カインド・オブ・ブルー」のセッションを連想してしまうほどですが、それはまだ翌年の出来事なんですよねぇ~♪ 今回、聞きなおして、ちょっと吃驚! もちろん別テイクも聞き応えがあります。
 そして続く「Oomba」は幻想的なアフロ系ハードバップと言いたいところなんですが、最初っからジョン・コルトレーンが演奏全体をリードしていますから、押して知るべし! インパルス期の演奏としてもイケる雰囲気なんですねぇ~。こんなん、あり!? 完全に煮え切らない、???の演奏が恐いところです。
 しかし「Gold Coast」はカーティス・フラー作曲によるエキゾチックな名曲・名演になっています♪ そこはかとない雰囲気と力強いビート、さらに思わせぶりなウイルバー・ハーディンのアドリブが始れば、あたりはモダンジャズ全盛期のムードで満たされるのです。もちろんジョン・コルトレーンは大暴走! というか、音符過多なスタイルが考えすぎの罠に落ちて抜け出せないという感じでしょうか……。
 ですからカーティス・フラーも地獄の迷い道なんですが、トミー・フラナガンが絶妙の道案内をしてくれますから、良い雰囲気です♪ もちろん例の「トミフラ」節が全開したアドリブも見事だと思います。分かり難い文章を平たく訳していく感じなんですねぇ。
 そして「Tanganyika Strut」は哀愁系ハードバップの隠れ名曲かもしれません。ただ惜しむらくは、テーマの吹奏が短いなぁ……、もうワンコーラス追加しても文句は出ないと思うのですが、そこはメチャ張り切ったウイルバー・ハーディンのアドリブで帳消しです。出だしのフレーズのハッスルぶりにはニヤリとさせられるでしょう♪ 当然、ジョン・コルトレーンも熱いですし、トミー・フラナガンも上手いと思いますが、カーティス・フラーがマンネリ気味で……。

ということで、1958年というモダンジャズ全盛期の最前線が楽しめる演奏集だと思います。

特に3月のセッションが完全ハードバップだったのに対し、6月のセッションがクールで進歩的な雰囲気に変化しているのは面白いところです。ただし演奏の出来としては、圧倒的に3月のセッションが楽しいのですが……。

また5月のセッションでは、何といっても「Once In A While」の名演が光ります。そして新参ベーシストのアル・ジョンソンが大健闘しているのも微笑ましい限りですねぇ♪

こういうマラソンセッション作品は、オリジナルのアルバムから聴くのが王道なんでしょうが、せっかくコンプリート盤が出ているのですから、「逆もまた真なり」として、ご容赦下さい。

とにかく濃密なジャズの時間が過ごせます。

コメント
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