今年は猛暑らしい、既に、もう暑い!
こう暑いと、聴きたくなるのがジョン・コルトレーン!
これはジャズ者のサガとでも申しましょうか、ジョン・コルトレーンの命日が7月ということで、往年のジャズ喫茶では今頃の時期になると、やたらにジョン・コルトレーンのアルバムが鳴っていましたですね。
もちろん7月14日には、終日、ジョン・コルトレーンばっかりを流す店もあるほどです! 当然、暗い店内はタバコの煙と満員のお客さんの熱気でムンムンムン!
そんな日々を体験した私は、ですから、暑いとジョン・コルトレーン!
■John Coltrane Quartert Live In Paris (Norma)
さて、このアルバムはジョン・コルトレーンが天国へ召される2年前、フランス巡業の際にパリで録音されたライブ盤です。
録音は1965年7月28日、メンバーはジョン・コルトレーン(ss,ts)、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルビン・ジョーンズ(ds) という、黄金の4人組♪
ちなみに、この時の巡業では7月26~28日の3日間、きっちり音源が残されていて、それらは各国で様々なアルバムに分散収録されていました。例えば我国では、1970年代に東宝レコードが出した「ライブ・イン・パリ」という2枚組アナログ盤が有名でしたが、収録された演奏は決して纏まった日のステージでは無く、CD時代になって、ようやく日毎に音源が整理されたというわけです。
そしてこれは、その3日目のステージです――
01 Afro Blue
一応、モンゴ・サンタマリアという打楽器奏者のオリジナルヒットですが、ジャズ者にとっては、ジョン・コルトレーンの演奏で広く認知されたアフロモードの激烈曲です。
その基本はワルツタイムなんですが、エルビン・ジョーンズが敲いていますから、それはそれは混濁したポリリズムの大嵐! もちろんマッコイ・タイナーがガンガン、ジミー・ギャリソンがブリブリに呼応しています。
ちなみにここでの演奏は、残念ながら最初のテーマ部分が欠落しており、マッコイ・タイナーのアドリブからしか聴くことが出来ませんが、満を持して登場するジョン・コルトレーンが、ソプラノ・サックスで十八番のケイレン節! ますます激するエルビン・ジョーンズとの対決も熾烈を極めます。
実はこの頃のバンドはジョン・コルトレーンが孤立していたというか、エルビン・ジョーンズとの確執からバンドは崩壊寸前だったと言われています。
う~ん、まあ、そう言われてみれば、ここでの爆発的な演奏には怒りが滲み出ているような……。私なんか、聴いていて爽快な疲労感にどっぷり落とされるんですが、つまり結果オーライなんでしょうねぇ。
そしてラストテーマのアフリカ色のメロディが、たまらなく心地良いです。
最後でのエルビン・ジョーンズのやけっぱちドラムスも、凄まじいですねっ!
02 Impressions
これもジョン・コルトレーンのステージには欠かせない、激烈モードのオリジナル曲です。
残念ながら、このトラックも途中からの収録で、ジミー・ギャリソンのベースソロとマッコイ・タイナーのアドリブからしか聴くことが出来ませんが、エルビン・ジョーンズのドラムスは、相変わらず強烈です! このパートのトリオ演奏こそ、実はジョン・コルトレーンのバンドでは核エネルギーだと思います。
ですから、いよいよ登場するジョン・コルトレーンが、思いっきりブヒブヒに吹きまくっても、尽きることの無いグルーヴが持続していくのです。
しかし、この日のバンドは異常事態というか、明らかにジョン・コルトレーンが魔界転生寸前の大暴走です。つまり常軌を逸して4ビートから逃れんと身悶えしています。フリーキーなトーンと音符過多の地獄巡り! マッコイ・タイナーとジミー・ギャリソンには、途中から演奏を諦めたような感さえあります。
そして独り対決の姿勢を崩さないエルビン・ジョーンズが、必至のリズムキープというか、もう、ほとんどドラムソロ状態! 相当に頭へ血が昇っていないと、これは出来ないでしょう。一説には、終演後にエルビン・ジョーンズがドラムスをひっくり返したとか……。
あぁ、ジョン・コルトレーン! こんな爆裂演奏は、もう誰も出来ないでしょう! 怒りの底から搾り出すラストテーマの苦しい表情には、絶句です。
03 Blue Valse
これは問題作「アセンション」のテーマを変奏した曲です。
それは美しき混濁というか、苦しみの真情吐露のようなジョン・コルトレーンの咆哮から、リズム隊だけの演奏になって、これぞ新主流派というモードジャズの極北が繰り広げられます。あぁ、ガーンと来て、本当に熱くなります! トリオの3者の息がぴったりで、非常にテンションが高いんですねぇ~♪ ビートのイントネーションもバッチリ合っています。
そしてマッコイ・タイナーに続いては、ジミー・ギャリソンがギスギスのベースソロ! ビンビンに迫ってきます。そしてグリグリのアルコ弾き! 変態スパニッシュ弾きというような変化ワザまで披露してくれます。
するとジョン・コルトレーンは意外にも正統派のようなフリをして登場しながら、忽ち止まらない地獄の怨念テナー! その場を完全に狂気へ導きます。あぁ、こんなん生で体験したら発狂でしょう。実際、ジャズ喫茶の大音量で聴いた時でも、自分はこんな事をしていて本当に良いのか!? と自問自答したくなるような雰囲気になりました。
まあ、それほど凄まじい咆哮に、聴いていた私の思考までもが「うつし世は夢」状態だったという事です。決して家庭の居間では聴き続けられないでしょう。
ということで、全3曲に和みはありません。ただただ、激烈な演奏に時間と空間が圧縮されていく感じです。
しかし、こういう演奏が、たまらくなく恋しくなるのが、蒸し暑い今の時期! それがジャズ者の悲しきサガだとしても、私は止める事が出来ないと思います。