頼んでいたブツが、ドサッと届いたのは嬉しいんですが、楽しんでいる時間が無い……。
そして今日は、ストーンズの最新ライブDVD4枚組とかサイモン&ガーファンクルの「1969年ライブ」盤とか、いろいろと頼んでしまった……。
いゃー、ネット通販は便利でいいけど、ますます自分の時間とお金が減っていく感じですねぇ……。人生をすり減らしているような気さえ、しています。
ということで、本日は――
■Chet Baker & Crew (Pacific Jazz)
チェット・ベイカーは説明不要の人気トランペッターですが、悪いクスリの所為で演奏にムラがあったり、人生を踏み外した時期もありました……。しかし生涯、自分のスタイルを貫き通したのは流石だと思います。
そこには白人らしいスマートな歌心と快適なドライブ感があって、しかもジャンルを超越して屹立するモダンジャズの本質が溢れていると思います。
このアルバムでのチェット・ベイカーは、ハードバッブに挑んだ感が強く、しかし実相は少しも変わっていないという、当に基本の1枚かと思います。ちなみにこの頃のチェット・ベイカーは、前年秋からの長い欧州巡業を終え、地元西海岸に戻ったばかりでしたが、当時のジャズ界で最高にブッ飛んでいたのは黒人主導の所謂ハードバップだった事から、黒人を入れたバンドを編成してレコーディングに臨んだようです。
録音は1956年7月24~25日&31日、メンバーはチェット・ベイカー(tp)、フィル・アーソ(ts)、ボビー・ティモンズ(p)、ジミー・ボンド(ds)、ピーター・リットマン(ds) に加えて、1曲だけ Bill Loughbrough(per) が参加した白黒混成! どうやらレギュラーバンドだったようです――
A-1 To Mickey's Memory
アップテンポでスマートな西海岸製のハードバップ♪ とにかくテーマがカッコ良すぎます! ラテンリズムとグルーヴィな4ビートの混合が、最高に上手くいっているんですねぇ。ゲスト参加の Bill Loughbrough によるチャカポコ楽しいパーカッションや、ボビー・ティモンズの力強い伴奏も印象的♪
そしてアドリブハートでは、先発のフィル・アーソが爽快にして滑らかなフレーズを聞かせれば、チェット・ペイカーは荒っぽくも痛快なノリで勝負しています。もちろん独自の歌心も忘れていません♪
またピアノとペースが黒人の所為でしょうか、ピーター・リットマンの如何にも白人らしい歯切れの良いドラムスを挟み込んだ「オレオビスケット」状態のリズム隊が、独創的なグルーヴを生み出しています!
A-2 Slightly Above Moderate
これは曲がつまらないのですが、チェット・ベイカーのアドリブだけは素晴らしいという、皮肉な演奏です。しかも緩いテンポですから、ジャズ喫茶ならば居眠りモード……。
ただしリズム隊に不思議なグルーヴがありますから、妙なスリルがあったりします。アドリブハートは力強いんですよ。
A-3 Halema
ちょっと当時のホレス・シルバーあたりが書きそうな印象的な曲です。穏やかな哀愁というか、個人的には気に入っているテーマメロディですし、それをリードする、ややハスキーなチェット・ベイカーのトランペット、歌心いっぱいのフィル・アーソのアドリブは、素晴らしいと思います。
また意外にも小粋なピアノを聞かせるボビー・ティモンズも♪
ただし、演奏そのものに、テープ編集疑惑があるかもしれません。
A-4 Revelation
ジェリー・マリガンが書いた幾何学的なブルースですが、このリズム隊ですから、なかなか黒くて力感ある演奏になっています。
まずフィル・アーソがズート・シムズっぽいドライブ感を聞かせれば、チェット・ベイカーはマイルス・デイビスのような思わせぶり♪ また業を煮やしてゴスペル調の伴奏をつけるボビー・ティモンズが、最高です! 短いながらアドリブも充実しているのでした。
B-1 Something For Liza
これは如何にも西海岸ジャズというテーマメロディとアレンジ、そして演奏そのものがスマート過ぎる感じです。アップテンポの楽しい演奏ではあるんですが、なんとなく時代遅れというか……。
ただしリズム隊のアレンジにちょっとした仕掛けがあって、なかなか刺激的なところがあります。
アドリブではフィル・アーソが滑らかなフレーズを連発! しかしチェット・ベイカーに調子が出ていません。そこで前述したリズム隊のキメが出るんですねぇ~。すると一瞬、生き返ったかのように良いフレーズを出すチェット・ベイカーに、ジャズの面白さを感じたりします。
ピーター・リットマンのドラムスが熱演です。
B-2 Lucius Lu
緩い脱力系モダンジャズなんですが、リズム隊がグルーヴィですから、ダレていません。ジミー・ボンドの重たいベースが流石!
するとフィル・アーソが会心のアドリブを聞かせてくれます。この歌心と構成力は、名演と言って良いと思います。続くチェット・ベイカーは、まあ、平均点でしょうか……。
しかしボビー・ティモンズのピアノがファンキーですねぇ♪ ベースのジミー・ボンドもビンビンのアドリブソロですから、たまりません。ピーター・リットマンのドラムスも入れて、このリズム隊だけが異次元を作り出している雰囲気です。
B-3 Worrying The Life Out Of Me
これも穏やかなテンポのスタンダート解釈を聞かせてくれるバンドの纏まりが、最高です。やっぱりチェット・ベイカーは、こういう歌物をやらせると素敵♪ テーマメロディの巧みな変奏に、グッときます。
そして何よりも、トランペットとテナーサックスによるハーモニーとメロディリードの按配が、絶妙なのでした。
B-4 Medium Rock
オーラスは、これぞ西海岸ハードバッブという演奏です。
ます、せつなく楽しくテーマメロディが素敵ですし、アレンジの妙から力強いリズム隊のノリ、さらに各人のアドリブの素晴らしさ♪ 特にチェット・ベイカーのバックでマーチ調のビートを刻むリズム隊が、印象的です。
ということで、チェット・ベイカーのアルバムとしては、ちょっと異質の仕上がりかもしれません。個人的には、力強く不思議なグルーヴを生み出しているリズム隊が聴きたくて、これを引っ張り出すという告白をしておきます。
ちなみにチェット・ベイカーは、この後、どういうわけか再び西海岸派どっぷりの演奏に戻っています。と言うか、実はこのレギュラーバンドが解散したようなんですねぇ……。ボビー・ティモンズはご存知のように東海岸へ行ってゴスペルハードバップの立役者になりますし……。
歴史的には2年後に「チェット・ペイカー・イン・ニューヨーク(Riverside)」という傑作ハードバッブ盤を吹き込むわけですから、聴き比べも楽しいかと思います。