「ゆれる」(2006年)、「ディア・ドクター」(2009年)、「夢売るふたり」 (2012年)に続く、西川美和監督の4年ぶりとなる最新作である。
西川監督は、直木賞候補となった自身の原作小説を、自ら映画化した。
自らの脚本による、オリジナル作品を撮り続ける監督5作目の長編だ。
妻の死をきっかけに、人とかかわること、人を愛すること野意味を見つめ直す男を描いた物語でもある。
「おくりびと」以来7年ぶりに主演を務める本木雅弘が、味わい深い演技を見せている。
人気作家の衣笠幸夫(本木雅弘)は、妻の夏子(深津絵里)が旅先で不慮のバス事故に遭い、親友とともに亡くなったという知らせを受ける。
その時、不倫相手と密会していた幸夫は、世間に対して悲劇の主人公を装うことしかできない。
そんな中で、同じ事故で死んだ夏子の親友の夫、大宮陽一(竹原ピストル)とその子供たちに出会った幸夫は、ふとした思いつきから幼い彼らの世話を買って出る。
陽一はトラック運転手で、不在がちな彼の代わりに、長男の真平(藤田健心) 、妹の灯(あかり・白鳥玉季)の世話をするうちに、幸夫は誰かのために生きる幸せを初めて知り、虚しかった毎日が輝き始めるのだった・・・。
幸夫は自意識の塊のような男として描かれ、欠点だらけなのだが、その人間臭さが妙に愛おしく見えてくる。
幸夫と亡くなった妻との夫婦関係はとっくに冷え切っていて、不倫の最中に悲劇の主人公を装い、実はどうしていいのかわからなくなっている。
自分に子供もいない彼が、他人の子供たちの世話を始めるのだ。
「愛すべき日々に、愛することを怠ったことの代償は小さくない」という、幸夫の言うフレーズがやけに効いている。
マルチなアーティストの、竹原ピストルの演技もはまっているではないか。
季節は春、夏、秋と移り、全編を通して主人公幸夫が微妙に変身していく。
外面を装わなくてはならない。
そうしなければ、生きてゆきにくい現代人の虚無を切り取った場面は、見どころである。
陽一の息子や娘の面倒を見るといっても、どこか欺瞞のようなものが漂う。
陽一は、妻の死に打ちひしがれながらも、懸命に生きようとしているが、心の核に空疎なものを抱える幸夫とは対照的だ。
西川監督の、人間の可笑しみや愛おしさを感じさせる演出が功を奏しており、一方で人間の虚しさ、愚かさも見つめる。
人は突然家族を失ったとき、どのように人生を取り戻すか。
西川美和監督の新作「永い言い訳」は、人生再生の過程を繊細かつ丁寧に描いた映画だ。
脚本もよく練れている。
これまでも、人情の機微を描き続けてきた西川監督だが、この作品で細やかな心理描写とともに心にずしりと残る余韻が心地よく、演出も鋭い。
このドラマのような話は、現実にありうることかもしれない。
そんな気がする。
ひとを愛することの、素晴しさと歯がゆさも一緒に、見ごたえ十分の一作で傑作に近い。
[JULIENの評価・・・★★★★★☆](★五つが最高点)
次回は日本映画「だれかの木琴」を取り上げます。
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ただ、現代の小説家というものは総じてあまり富裕ではないようで・・・。
苦節十年といったって、なかなかです。
売れっ子作家は、一握りですものね。
食うや食わずの凡百の作家に交じって・・・。
芥川賞や直木賞を受賞しても、泡沫のように消えていった作家は数えきれませんから。いや、ほんとに・・・。