ファン・ドンヒョク監督の韓国映画だ。
韓国で公開されると、460万人以上が動員され、国民の怒りが政府を動かし、問題を起こした学校を廃校に追い込んだ、実話を描いた衝撃の作品である。
かつて日本映画で、「闇の子供たち」というロングラン作品があったが、それに匹敵するほどの衝撃作だ。
今回、映画というエンターテインメントによって、はじめて社会が動き、国が動いたのだ。
これは、真正面から向き合って観るべき、社会派映画の秀作である。
霧の美しい田舎町ムジン(霧津)・・・。
美術教師イノ(コン・ユ)は、郊外の聴覚障碍者学校に赴任することになった。
ある放課後のことであった。
寮の指導教員が、女子生徒の頭を洗濯機の中に押し付ける行為を目撃し、生徒をかくまう。
その少女は、男女複数の生徒たちが、校長を含む教師から性的虐待を受けていたことを告げる。
自身が、幼い娘の父親でもあるイノは、大きな衝撃と憤りを感じ、この真実を告発することを決意する。
様々な妨害や葛藤がありながらも、イノは子供とともに法廷に立った。
しかし、彼らの前には、残酷で理不尽な現実が大きく立ちはだかるのだった。
裁判は難航をきわめるが、人権センターのユジン(チョン・ユミ)の勇気ある行動で、法廷に手話通訳者がついたり、やり手検事の手腕もあって、学園側の用意した証人たちの嘘が次々と暴かれていく。
だが、性的虐待という卑劣な事件でありながら、子供たちの親に公然と示談が持ちかけられる。
虐待を受けた子供たちは孤児だったり、親に知的障碍があったりで、校長たちは、はじめからそういう子供に狙いをつけて、犯行を繰り返していたのだ。
イノとユジンは、校長たちの蛮行を裏付ける、ある決定的な証拠を入手し、彼らの厳罰は確実かと思えたが、運命は思いもよらない仕打ちを用意していた。
そして、校長らの無残な虐待に耐えられず、自殺した子供の兄ミンス(ペク・スンファン)には、行き場のない復讐心が生まれ、哀しい暴走を始めるのだった・・・。
2000年から6年もの間、校長をはじめ、教員らの性的虐待が行われていた学校が、本当にあった。
2005年の事件発覚後も、加害者は法的な処罰を受けることなく、教壇に立ち続けていた。
この事実に憤りを感じた、人気作家コン・ジョンが事件を取材した小説を発表し、大ベストセラーとなった。
映画化を勧めたのは、作品を読んで感動した主演のコン・ユ自身だった。
映画化されるや、多くの人々が不条理な司法制度を批判、政府を動かすまでに発展し、李明博(イ・ミョンバク)大統領らによって、事件の再調査、法律改正、そして、実在する学校の廃校といった事態にまで及んだのだ。
映画の力が国家を動かしたのだから、大したものだ。
41歳の俊英、ファン・ドンヒョク監督の韓国映画「トガニ 幼き瞳の告発」は、ドラマの核となる、息詰まるような法廷シーンをはじめ、出演者たちもなかなかの好演で、リアルな告発サスペンスとしてもすぐれた作品だ。
とくに、難役なのに、子役たちの演技が素晴らしい。拍手である。
ドンヒョク監督の突込みも、静かだが鋭く、構成もしっかりしている。
全編に漂う、笑いのない不気味さが胸を打つ。
美術教師役のコン・ユは、もっと強い存在感を出してほしかった気がしないでもないが、ここはあえて抑えた演技に徹したのか。
深い悲しみをたたえ、障害があって、言葉を発せられない子供たちの瞳が、印象的である。
正義とは何だろうか、と考えさせられる。
社会的な弱者には、正義は行われないのか。
人間の弱さも強さも、こうした造形で抉りだされると、何ともやりきれない思いだ。
実話にもとづく悍ましい事件だが、映画だからこそ描ける真実、それが社会を、国を動かしたのである。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
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