こんな映画があったのか。
恐ろしくても目の離せない、想像を絶する驚異の映画である。
2013年、73歳で他界したロシアの巨匠・アレクセイ・ゲルマン監督の遺作だ。
ストルガツキー兄弟のSF小説を原作に、2000年から撮影されてきたが、ゲルマン監督の急逝によって妻子が完成させた。
どこまで行っても果てのない、怪物的な世界を描いて、まるでこの世の地獄めぐりをしているような感覚にとらわれる。
鬼才アレクセイ・ゲルマン監督は、全編2時間58分の鮮烈なモノクロームで悪夢の世界を展開する!
驚愕の映像世界である。
物語はとにかくわかり難い。
地球より800年ほど進化の遅れた、中世を思わせる異星(惑星)が舞台だ。
その、とある都市アルカナル・・・。
この地に地球から、科学者、歴史家らの調査団が派遣された。
そこでは、権力を持った商人たちによる圧政、殺戮、知識人迫害が横行していた。
地球から来た研究者の一人、ドン・ルマータ(レオニード・ヤルモルニク)は、知識と力を持って現れた神のような存在として崇められていた。
20年という時が流れても、文化発展の兆しは全く見られず、政治に介入することは許されず、ルマータの理性は打ち砕かれ、知識人は首を吊られ、人々は汚穢の中を這いずり回っていた!
そのルマータも当直中に、王の護衛隊に逮捕される・・・。
この中世的圧政と暴虐が支配、横行する惑星に、文化的発展をもたらそうとしてもできない。
人間が神と呼ばれようとも、悪を本当に克服できるだろうか。
権力者、軍隊、修道僧が無意味な争いを繰り返し、殺し合う凄惨な現場は修羅場そのものだ。
惑星は年中豪雨に見舞われ、ドロドロの地面に汚物が撒き散らされ、誰もがそれにまみれていく。
画面は奥行きが深く、いつも何かが動いている。
人間、判別しがたい固形物、液体など・・・。
猥雑で、不快きわまりない、目を覆いたくなるようなシーンが、これでもこれでもかと眼前に迫ってくる。
圧倒的なイメージの洪水だ。
しかも、その滑稽と諧謔は説明の仕様がない。
撮影期間6年、編集にさらに5年、ゲルマン監督急逝後の残りの作業を、彼の遺言通り妻子が継いで、延べ15年以上もかけて作品を完成させた。
異様この上ない作品だ。
物語には起承転結もないし、複雑なセット、小道具、夥しい数のエキストラや動物が入り乱れて、もう混沌と虚無が混在する怪異な世界が描かれる。
詳しい説明も、描写もない。
濃密な画面だけが、切れ目なく、何の脈絡もなしに一気に襲いかかってきて延々と続く。
この怖るべき混沌は、おそらく映画でできることを、極限にまで突き詰めたものではないだろうか。
長い映画の終盤、坊主頭になり、鎧を脱ぎ捨て毛皮をまとった主人公ルマータは、奴隷たちに囲まれながら愛用の吹奏楽器を演奏する。
ルマータは馬車で雪道を去ろうとするのだが、牽引していた騎馬隊から、いつしか車が切り離される。
そして、騎馬隊が遠ざかっていく中、取り残されたルマータの奏する、もの悲しいメロディだけが雪原に響き渡る。
全編を通して、最も身の引き締まるラストである・・・。
しかし、この異星(惑星)の出来事は、間違いなく、いや、もしかすると地球の現代かも知れないのだ。
その現代を打ち砕く、鬼才ゲルマンの執念怖るベしである。
これも映画芸術というか。
アレクセイ・ゲルマン監督のロシア映画の大作「神々のたそがれ」は、すらすら簡単に観られるたぐいの作品ではない。
とても、誰にでも楽しめるという作品でもない。
順序立てて、きちんと観ようと思っても、無意味だ。
話を理解しようとすると、混乱を招くばかりである。
そうなのだ。
この映画で描かれる惑星は、つまりは我々の地球かも知れないのであって、カオスのこの世界を生きようとする人間の姿の、何と惨たらしく、いかに滑稽極まる狂気に満ちたものであることか。
いずれにしても、強烈にして、難解な作品だ。
しかし、しかしである。
そんな難解な映画なのに、2時間58分という上映時間は、あっという間に過ぎてしまった。
いやあ、驚きだ。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
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