徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「最愛の大地」―尊厳を踏みにじられた女性たちの慟哭―

2013-09-19 21:00:00 | 映画


 アカデミー賞女優、アンジェリーナ・ジョリー渾身の初監督長編映画である。
 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の特使として活躍する彼女が、1992年のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を、この作品の舞台に選んだ。
 自身が脚本も手がけ、内戦勃発によって、突然敵と味方に分かれてしまったカップルと、男性たちの暴力になすすべなく曝される、罪なき女性たちの悲劇を描いている。

 これまでも、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争をテーマにした作品は多々作られてきたが、そこにいて体験した人間の慟哭を、これほど生々しく映し撮った作品があっただろうか。
 アンジェリーナ・ジョリーのデビュー作とはとても思えない、迫真に満ちたドラマの展開から片時も目が離せない。















        
1992年のボスニア・ヘルツェゴビナ・・・。
セルビア系ボスニア人の警官ダニエル(ゴラン・コスティック)と、ムスリム系の画家アイラ(ザーナ・マリアノヴィッチ)は、付き合い始めたばかりの普通のカップルであった。
だが、紛争が勃発し、アイラは捕虜として連行され、二人はいきなり敵味方に分かれてしまう。

捕虜たちへの暴行がまかり通る兵士宿舎で、アイラとダニエルは再開するが、彼は敵対するセルビア系ボスニア軍の将校となっていた。
ダニエルは、アイラを何とか救おうと手を差し伸べるが、二人の関係にも葛藤と苦悩が忍び込み、全く出口の見えない展開が待っていた・・・。

ヒロインのアイラだけは、かつて恋人だったセルビア人将校ダニエルに守られるが、多くの女性たちは兵士たちの凌辱を受け、あるいは殺される。
映画は、どの暴力シーンも重く、暗い。
それは、救いようのない地獄だ。
出演者のほとんどが、紛争を生き延びた人たちで、もちろん演技の経験もない。
撮影中に、過去を詳細に語る人も多く、それらをアンジェリーナはできる限りドラマの中に取り入れたそうだ。
ボスニアでは、民族浄化という名目で公然とレイプが行われ、その不条理に踏みにじられた、多くの女性たちの悲しみが描かれる。

ドラマでの将校ダニエルの葛藤はよく描かれているが、欲を言えばアイラの心の葛藤にもっと踏み込んでほしかった。
それと、二人が密会を重ねるシーンは、現実の問題として、この状況下で相当困難だったと思われるのに、映画ではしばしば二人の出会いのシーンが登場するのだが・・・。
残念だったのは、日本公開版が全編英語だったことだ。
アメリカ映画とはいえ、セルビア人たちの話す、当然ながら決して上手ではない英語が、どうしても気になって仕方がなかった。
意味は字幕スーパーで理解できるだろうから、ここは、登場人物たちもすべて現地人なのだら、母国語で喋らせてほしかった。
身を持ってボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を体験した、この作品の出演俳優たちが、決して脳裏から消え去ることのない悲しみの記憶を、彼ら自身の言葉で、だ・・・。

アンジェリーナ・ジョリーは女優業を筆頭に、6人の子供の母親でもあり、UNHCR特使、アメリカ外交問題評議会などの活動には、目を見張らせるものがある。
偉い女(ひと)だなあと思う。
初監督作品として選んだ今回のテーマが、いまなお民族、宗教間の問題が不安定なボスニア・ヘルツェゴビナとは驚きである。
アメリカ映画「最愛の大地」は、最初から最後まで緊張感を保ったまま観る者をひきつけ、全く目を離すことができない。
チャレンジャーとしてのアンジー恐るべしである。
戦時下のレイプという性暴力を、アンジェリーナ・ジョリーは、心掻きむしられるような、実にリアルな、ドキュメンタリーに近いドラマ映像で綴った。
人間の尊厳を破壊する、これは重く暗い物語だ。
しかし、彼女は果敢にこの作品に挑戦した。
「過去を変えることはできないけれど、未来は私たちの自由になる」
気迫十分、平和への祈りを込めた力作である。
     [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)     


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2 コメント

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ボスニア紛争 (茶柱)
2013-09-19 23:08:58
まだ記憶に新しい紛争ですね。
そして,隣人と隣人が争った,悲惨な紛争でした。
日本と異なり,世界には兵器があふれていますしね。
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世界のいたるところで・・・ (Julien)
2013-09-23 10:30:45
起きている内戦を考えると、日本の平和はいつまでも続いてほしいですね。
それには、やはり不戦、戦争をしない国であり続けてほしいものです。
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