この映画の時代、タイトルに使われている“ブラック・ブレッド”(黒いパン)とは、小麦、大麦、トウモロコシ、キビ、どんぐりの粉末を混ぜて作られたもので、貧しい人々や庶民の間で食され、“貧者のパン”と呼ばれていたそうだ。
この作品は、当時スペイン内戦が引き起こした、道徳観の荒廃を主軸に据えている。
巨匠ペドロ・アルモドバルを押しのけて、映画賞を総なめした。
アグスティー・ビジャロンガ監督の、スペイン映画だ。
子供の目から見た、ダークファンタジーとして描かれる作品の多い中で、この映画はリアリティが強調された作品として注目される。
スペイン内戦の傷跡が残る、カタルーニャ・・・。
その山の中の小さな村で、11歳の少年アンドレウ(フランセスク・クルメ)は、血まみれになった親子の遺体を発見する。
アンドレウの父と同志の、ディオニスとその息子のクレットだった。
クレットが最期に遺したのは、「ビトルリウア」という謎めいた言葉だった。
それは、子供たちの間で噂されている、洞窟に潜む翼を持った怪物の名だった。
警察では、当時は事故とみなしていたが、やがて、アンドレウの父ファリオル(ルジェ・カザマジョ)の容疑がかけられることになった。
母フロレンシア(ノラ・ナバス)は働きに出ていて、安住のために、祖母役に引き取られることになったアンドレウは、その家で、事故で左手を失った従妹のヌリア(マリナ・コマス)らとともに、新しい学校に通い始める。
アンドレウは、そこで、大人たちが隠し続ける惨たらしい現実に直面する。
金がすべてだと言い放った教師や、その教師と関係を持った従妹、裸で森をさまよう美しい青年、生きるために嘘を積み重ねて暮らしてきた村の人々、そして、語り継がれる洞窟の怪物ビトルリウアの伝説・・・。
黒く深い森の中で、一体何があったのか。
事実のすべてを知り、すべての謎が解けたとき、アンドレウはある決断をするのであった。
黒いパンと白いパンに象徴される格差社会は、スペイン内戦に起因しており、このドラマの背景をを知る大きな手掛かりとなる。
自分たちの都合の悪いことをひた隠す村人たち、その謎を少年が解き明かしていく、一種のミステリーともいえる。
真実を知らなかったのは子供たちで、大人たちは知っていたという話は、閉塞的な社会ではどこにだってある。
偽善で固められた大人たちの世界を、子供の視野で冷ややかに見つめる。
ドラマの撮影のスタイルは、古典的で、過去の出来事や人物が重要な要素となる作品だが、少年を進行役とすることで、観る者は可能な限り、一人称の視点で見られるような展開となっている。
このドラマは、人物の相関関係もそうなのだが、やや説明の足りない描写も散見され、ちょっと見には、わかり難い場面もある。
大人たちの嘘が、少年の心を悪魔のように凍らせていくといえば、大げさかもしれない。
アグスティー・ビジャロンガ監督のスペイン映画「ブラック・ブレッド」は、人間の持つ欲望と心の闇を炙り出し、真実と嘘が交錯する緊張感に満ちている、ミステリアスなドラマだ。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
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謎解きものが。
スペイン内戦当時ですか。一体どんな謎がっ!?
必ず歴史の表に出てこない、謎めいた部分があるものですね。
それが、ドラマになるのですね。