徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「クレアモントホテル」―品位を忘れずに人生の終焉を生きて―

2011-03-25 22:00:00 | 映画


     
     彼岸を過ぎて、なお寒い日が続く。
     そんな時には、陽だまりが温かい。
     温かい場所は、すこぶる居心地がよい。

     この映画は、老婦人と青年の交流を綴った小品だ。
     人生に対する、限りない愛をこめて・・・。
     ダン・アイルランド監督イギリス・アメリカ合作映画に、大げさな気負いは何もない。
     ごく普通の映画なのに、どこか温かい。





 英国・ロンドンの街角に、慌ただしい時代から取り残されたような、古びたホテルがある。
クレアモントホテルだ。
長期滞在向きのこのホテルに、人生の終着駅に近づいた人たちが、引き寄せられるようにやって来る。
サラ・パルフリー夫人(ジョーン・プロウライト)も、そのひとりであった。
彼女は、娘から自立するためにここを訪れ、ホテル暮らしを始めた。

新入りのパルフリー夫人は、老いた先客たちの注目を集める。
どこかいつも孤独におののきながら、あてのない誰かからの電話を待っているような、ホテルの住人たちの関心は、夫人のところにだれが訪問してくるかということだった。
しかし、夫人のところには、娘も孫も訪ねてくることはない。
夫人は、彼らに孫の話をするのだが、本当の孫はいないし、だから現れない。

ある時、パルフリー夫人は外出先で転び、近くに住む青年のルード(ルパート・フレンド)に助けられる。
夫人は、こころ優しい彼を、自分の孫に仕立てようと思いつく。
日々の暮らしさえもままならない、小説家志望の青年との、世代の異なる二人の心の交流が始まる・・・。

こうして、孤独ながらも、ユーモアとウイットを忘れないホテルの住人たちの中で、パルフリー夫人は、青年を通して、亡き夫との思い出を紡ぎ、青年は夫人から人生の奥深さを知る。
この二人の出会いと別れ、彼らを取り巻く愛すべきエピソードと、それらの喜びや哀しみを、じんわりとした温もりとともに、優しくやわらかい春の日差しのように描いている。

ダン・アイルランド監督映画「クレアモントホテル」では、ヒロインのパルフリー夫人を演じるベテラン、ジョーン・プロウライトのあくまでも気品のある存在感がいいし、青年ルード役のルパート・フレンドもいい。
老いてなお失われない人生への前向きの姿勢、若さへの賛歌を綴りながら、そこはかとない温かみが、主人公の愛読するワーズ・ワースの詩集とともに、人生の様々な‘楽章’が抒情豊かに奏でられる。

主人公が、知らない場所に踏み込んだときの不安は大きい。
ホテル滞在の初日に、パルフリー夫人がお洒落をしてホテルの食堂を訪れて、逆に恥をかいたり、他の人たちから好奇の目で見られたり、冷ややかな空気が流れたりするのだが、毎日顔を合わせているうちに、誰とも打ち解けて、人それぞれの善さが見えてきて、この世は誰もがいい人なのだと感じさせるあたり、女性監督ダン・アイルランドの実直な目線に共感できるのだ。
斬新な表現や、遠大な思想を謳っているわけではない。
凡庸な作品と見えて、後味も心地よく、しかも小さな宝石を思わせるような、珠玉の一作だ。


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2 コメント

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寒い日が続いています。 (茶柱)
2011-03-25 23:16:18
こんな日に暖かい映画もまた,良いものです。ほっこり。
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桜が・・・ (Julien)
2011-03-29 11:35:04
開花したというのに、まだまだ寒い日が続くのでしょうか。
大震災のショックも癒えていないのに・・・。
ほっこりしたいものです。
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