フィリップ・ファラルドー監督のカナダ映画だ。
カナダ・アカデミー賞では、主要6部門を独占した。
生と死を、どうとらえたらいいのか。
人は、悲しみをどうやって乗り越えてゆけばよいのか。
ここに、再生に向かって強く生きようとする人たちがいる。
大変シリアスなテーマを扱っているのだが、全編にわたって軽やかなユーモアが感じられる。
それが、この映画の救いかも知れない。
モントリオールのある小学校・・・。
冬の朝、教室で、担任の女教師が首を吊って死んでいた。
生徒たちはショックを受け、学校側は生徒たちの心のケア、後任探しの対応に追われる。
そんな中、アルジェリア移民の中年男バシール・ラザール(モハメド・サイード・フェラグ)が、代用教員として採用されることになった。
担任教師となったラザールと子供たちの、新しい学校生活が始まった。
ラザールは、その温和な性格から、早々と子供たちと打ち解けるのだったが、その授業のやり方は洗練されているとは言えなかった。
やや時代遅れで、前任の先生の時とはまるで違うラザールの授業に戸惑いながらも、子供たちは、徐々に以前の生活を取り戻していくのだったが・・・。
実はラザールは、祖国で傷を負っていることが明らかとなり、彼が教員の資格を持っていないどころか、カナダの正式な永住権を持っていなかったことが知られてしまう日が来た・・・。
朴訥な教師ラザールには好感ももてるが、彼は履歴を偽って代用教員に収まったのだった。
前の担任教師の、自殺の理由については明かされていないが、生徒たちの間には当然驚きの声が上がり、何故、どうしてということが一部の生徒たちの頭から離れなかった。
その現実を遠ざけようとする、学校側のやり方に疑問を持つ生徒や、そのことを気にしていないふりをする生徒への苛立ちとか、実はラザールが正式な移民ではなく、カナダに逃れてきた難民であったことも判明し、周囲に様々な波紋を呼ぶ・・・。
しかし、この映画が、ユーモアをも感じさせながら、何だかどうしようもなく悲しいのはどうしてだろうか。
学校や生徒にとって大事な問題を目の当たりにして、多くは語られていない。
それは何故だろうか。
代わりの教員が、教壇に立つが、彼は彼で大きな過去を背負っている。
教室で、生徒と彼の間に通い合うものは、おそらくその朴訥さ、誠実さ、真摯さだろうか。
ドラマは、不協和音を押し殺すかのように(?)、どこまでも静かに展開する。
ラザール先生は、少々野暮ったいし、授業の仕方も平凡だが、いつも生徒には真摯に向かい合っている。
そんな先生の前に、前任者の死で傷ついた生徒たちが、少しずつ心を開き始める。
それはいい。
気になるのは、ドラマ冒頭に描かれる、前任教師の突然の死がとても重いはずなのだが、どこか軽く扱われてはいないか。
ドラマに深い追及もなく、十分に描かれているとは言えない。
それと、どこからともなく現れた謎めいた代用教員ラザール先生は、政治難民の身でありながら、履歴を隠すほどの深い悲しみを負っていた。
それらは、このドラマの深層部分でどう関わり合い、どういう意味合いをもたらしているだろうか。
細やかなディテールを描きつつ、温もりのある、優しい物語でありながら、核心の部分が不鮮明である。
ファラルドー監督の脚本には、もう一押し工夫を求めたい。
カナダ映画、フィリップ・ファラルドー監督の「ぼくたちのムッシュ・ラザール」では、大人が子供たちを導くということが小さな救いとして描かれるが、学校の教室は決して絶望をぶつけ合うところではない。
重い過去があり、悲しみがあっても、その上を優しく吹いていく一陣の風がある。
その大人と子供の頭上を吹きすぎる風を、ため息交じりの呟きととらえれば、それは悲しみから再生への一編の詩のような映画ともなりうる。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
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重い描写がありながら,風が吹いていくという感想というのは。
何しろ未だに風が吹けば肌が焼けそうな熱風なもので。
・・・風といえば、この頃、朝夕少し風の涼しさを感じるようになりましたね。