この秋、俳優緒形拳さんが急逝して、早いもので2ヶ月になる。
その緒形拳の追悼特集を、ミニシアターで覗いてみた。
その日、上映されていたのは、檀一雄原作の「火宅の人」であった。
20年も前に、一気にタイムスリップだ。
ま、たまにはそれもいいかと・・・。(いや、結果的にはよかったわけでして・・・)
この作品は、作家檀一雄が20年の歳月をかけ、死の床に完成した執念の大作だ。
日本文学大賞、読売文学賞に輝き、東映で映画化されたのは86年のことである。
翌年の日本アカデミー賞で、最優秀主演男優賞、最優秀作品賞などの各賞を総なめにした。
緒形拳の代表作のひとつである。
一家族の夫であり父である作家の、自由奔放な、凄まじいまでの半生が描かれる。
家族があるのに、家を飛び出し、女たちと出会い、そして別れ、酒に溺れ、とめどない放浪を繰り返し・・・、その壮絶な孤独の中で謳い上げた、豪放な魂の告白といったらいいだろうか。
これはもう、作家檀一雄その人の投影だ。
その放埓な生き様は、一人の人間のそれ自体生そのものであり、人と人、男と女の出会いと別れを、豊かな日本の情景の中に描いている。
男の放浪の背景には、ほろ苦い哀愁と抒情が漂っている。
ここでは、男は、十和田湖、五島列島、阿蘇など、日本の各地の旅情をさすらう旅人である。
ときに悲しく、ときに可笑しく、自分の人生を謳歌する。
それは、作家檀一雄(緒形拳)だ。
何があろうとも、あくまでも自分に忠実に生きようとする男の<哀れ>が、或る種の文学的な香気を放っているように見えるから不思議である。
この作品を懐かしく観て、緒形拳を偲び、また檀一雄への想いをあらたにした。
深作欣二監督の文芸大作だが、いま観ても古さを感じさせない作品だ。
いしだあゆみ、原田美枝子、松坂慶子、檀ふみ、蟹江敬三らの名だたるキャストも、当然若々しい。
古い作品だが、結構面白く出来ていて、楽しめた。
よき時代の、よき日本映画の代表作でもあろう。
いまは亡き、俳優と作家を共に偲ぶことのできたひとときだった・・・。
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そうですか、そういうキャスティングですか・・・。
しかし、最近は、こんな豪放な破滅型の作家さんにはあまりお目にかかれないようで・・・。