徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「レイチェルの結婚」―家族の葛藤と再生―

2009-05-02 06:00:00 | 映画

心に深い傷を負った、家族の葛藤と再生の映画である。
ジョナサン・デミ監督が、ジェニー・ルメットの脚本を得て、過去の悲劇が原因で、互いの心を閉ざしながら、それでも少しずつ理解し合おうとする家族を描いたアメリ映画だ。
脚本のジェニー・ルメットは、言わずと知れたシドニー・ルメット監督の娘さんだ。

ドキュメンタリータッチのこの作品は、人間として生きていくことの喜びと痛み、愛と孤独を描きながら、一家族の動く肖像画のようにカメラが追っている。
ここでは、俳優たちは思うがままに動いて、しゃべり、撮影監督は半ばキャストの一員となって、手持ちカメラで家中を歩き回っている感がある。
直観と技と自信を頼りに、カメラを向けるべき方向を瞬時に判断しつつ、ホームビデオのように撮影していったようだ。
なかなか面白い、カメラの使い方である。
この撮影方法は、演技陣にとっても、いつカメラが自分に向けられるか分からないのだから、さぞかし大きなチャレンジだったことだろう。
そのぶん、登場人物の心象風景は、非常にリアルに表現されている。

幸せな結婚を目前にひかえた姉、麻薬中毒から抜け出そうともがく妹、そんな妹に厳しいことが言えない父、そして娘たちにもどこかよそよそしい実母、家族のひとりひとりが心に深い傷を負っているのだ・・・。

姉ルイチェル(ローズマリー・デウィット)の結婚式に出席するため、キム(アン・ハサウェイは、式の準備で華やいでいる家に帰ってきた。
ところが、麻薬中毒の治療施設から一時退院したキムは、ささいなことから、ピリピリとして周囲とぶつかってばかりいた。
父親や姉が向ける眼差しや、言葉に尖らせるキムの存在は、結婚式直前のバックマン家の空気を一変させる。

キムには、16歳の時に、鎮痛剤でハイになったまま幼い弟イーサンを車で公園に連れて行き、その帰り道、湖に車ごと落ちてその弟を溺死させてしまった、悲しすぎる過去があった。
彼女を苛む辛い過去は、家族の運命を変えた出来事であった。
それらの秘密が、結婚という人生最良の日に明かされていく。
姉と妹、父と母、それぞれが愛を求めてやまない、心の旅路だ・・・。

人と人のつながりの中で、家族ほど濃密な葛藤をはらんだ関係はないかも知れない。
些細な言動が、心を癒したり、深く傷つけたりもする。
ひとたび大きな傷が生じたとき、それを修復するのは容易なことではない。
家族とは、かけがえのない存在でありながら、実は厄介な存在でもある。
そうした家族の情と葛藤を、長女レイチェルの結婚式まで三日間という時間設定の中で、浮き彫りにする。

キムの帰還は家の中に緊張をもたらし、彼女のあけすけな言動が、一家の抱えている深い傷を明らかにしていく。
それでも、家族は愛し合っていて、強い絆で結ばれている。
痛みに満ちていても、お互いの傷が容易に癒されなくても、レイチェルの結婚式は幸福いっぱいに包まれる。

ジョナサン・デミ監督の演出は、脚本家ジェニー・ルメットのデビュー作を、十分過ぎるくらいに活かしている。
ただ、ときに物語の説明部分にあたる、俳優たちの長広舌なセリフ回しは、苦しい場面もある。
もう少し、どうにかならなかったか。
ヒロインのアン・ハサウェイは、これまで明るい役柄が多かったそうだが、この作品では、一転して深い傷をかかえた複雑な女性像を、繊細な演技で表現している。
アメリカ映画「レイチェルの結婚は、観終わったあとに、人生はどんな形にせよ、前に進むしかないことに気づかされ、勇気と希望を持ち帰れるのではないだろうか。
スリリングなホームドラマの体をなした、見応えのある感動作だ。


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2 コメント

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劇場に行かないでいると (茶柱)
2009-05-07 13:59:44
つい、映画は「派手なSFアクション超大作」しか作られていないような錯覚に陥りますが、実際にはそんなことは無いんでしょうね。

それでもなかなか映画館の敷居が高いままですが・・・。
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決して・・・ (Julien)
2009-05-07 16:19:11
そんなことはありません。
それだけが映画だったら、映画人口は確実に減るでしょう。
・・・なんて、偉そうなことを言いますが、実際そうです。
映画の領域って、想像以上に広いと思います。はい。

万障繰り合わせて、映画館へどうぞ。
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