・・・うちのこと、幸せにしてくれて、ほんとにありがとう。
織田作之助の原作にもとずいて、池田敏春監督が、ほんわかとした心温まる映画を創った。
可笑しくて、滑稽で、悲しくて・・・。
人と人との結びつきが希薄になって、孤独と隣り合わせに生きる日々・・・。
‘愛’とか‘友情’が、心から求められている今の時代・・・。
一途に愛を貫く、真面目で平凡な男と、拭いきれない過去を引きずりながらも、ありったけの母性で男の愛を受け止める女の、可笑しくも悲しいまでの一編のラブ・ストーリーである。
不器用な生き方しか出来ない男は、世の中に大勢いる。
ここに奏でられる恋物語は、人生の切なさ、日々の営みの尊さも、人情のあたたかさも、そしてとどのつまり愛なくしては生きられない人間の‘性’を、優しく示しているようだ。
中学校の教師寺田悟(八嶋智人)は、仏具展を営む実家で両親と暮らしている。
見合い話には目もくれず、今夜も北新地のクラブへいそいそと出かけていく。
店のホステス川尻一代(佐藤江梨子)に、思いを寄せているのだ。
一代の方は、酒も飲めないのに足しげく通ってくる寺田に、まんざらでもない様子だ。
ある夜、寺田は、店を終えて帰る一代を待ち伏せる。
帰り際に、客の男に執拗に迫られている一代を助けることすら出来ず、彼女から責められる寺田だったが、意を決して一代にプロポーズする。
一代は、寺田の申し出を受け入れた。
家を飛び出した寺田と、孤独を恐れ、幸せを夢見る一代の新婚生活が始まった。
二人の幸せな愛の日々が続くが、生活を重ねていくうちに、一代の過去の男性遍歴が見えてくる。
寺田は、一代が留守のおり、彼女に届いた葉書を何気なく見てしまう。
それは、知らない男からの逢引の誘いをにおわせる文面だったが・・・。
そして・・・、妻の一代が乳がんに冒されていると告白されたのは、それから間もなくのことだった。
森繁久弥と淡島千景のコンビで、映画化された名作「夫婦善哉」で華々しく文壇に登場した、昭和の文豪織田作之助の短編をもとに、失われつつある浪速の厚い人情の世界を再現して見せた。
大阪の男と女のけったいな関係を、池田敏春監督の「秋深き」は、純情物語として描いたものだが、昭和の名作を現代の大阪によみがえらせた、ほんまにええ話だと言いはりますが、さてどんなものですか。
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人間って、時々やるせなくなりますもの・・・。