世界が平和でありますように・・・。
そんな想いとともに、人が生きていくための多くのテーマが、この作品には織り込まれている。
たとえば、どこの国に住んでいても、どんな心情や信仰を持っていても、純粋で混じりけのない愛がある。
それは人間であれば、誰もが備えているものだ。
ジャン・チンミン監督のこの作品は、戦争映画ではない。
国境を越えて、実話に基づいて創られた、真実の愛と友情の物語である。
総製作期間8年、このドラマから大きく見えてくるものは、平和のメッセージである。
小学校教諭の俊介(川口恭誉)と保健婦の愛(小林桂子)は、理想の教育を目指して満州に渡った。
1945年、太平洋戦争終結を迎え、日本人の二人は多くの開拓団民と一緒に、中国に置き去りにされる。
結婚式の途中で爆撃に遭い、命からがら逃げてきた二人を、山龍(ポン・ボー)と彼の年老いた母親(チャン・シャオホワ)が受け入れた。
日本人と中国人の、山龍家での生活が始まった。
はじめは日本人に憎悪を抱いていた山龍も、徐々に心を許していく。
彼らの間に、国境を超えての愛情、そして命を懸けた愛が生まれようとしていた。
村人からも好意の目で受け入れられるようになったとき、俊介は、山龍が愛に好意を寄せていることを感じ取り、冬を前に日本に帰ることを愛に提案する。
二人は山を下り、汽車に飛び乗るが、そこには抗日軍兵士が銃を構えて乗っていた。
身の危険を感じた俊介は、愛に危害が及ばぬように、彼女の手を離してしまった。
汽車から振り落とされた愛の耳に、銃声が響いた・・・。
気を失った愛は山龍によって助けられ、彼女は悲しみを胸の奥にしまいこみ、山龍と老母と3人の新しい生活が始まったが、そのとき愛のおなかには俊介の血を受けた新しい命が宿っていた。
山龍の母が亡くなり、中国の大地で愛は俊介の子を出産し、桂花と名付けた。
山龍は父親役を買って出て、親子としての幸せな生活が始まる。
そして3年の月日が流れたある日、愛と山龍と桂花の前で、思いもかけない運命の出来事が・・・。
この映画は、戦争の悲惨さを伝えるものではない。
無条件の愛がテーマだ。
中国の農民たちの多くは、日本軍に大切な家族の命を奪われていた。
そんな中で、日本人の愛と俊介を受け入れ、家族同然に暮らすというのは夢のような話だ。
その家には、山龍とその老母がいた
日本軍に命を奪われながら、そんな彼らが哀しみや憎しみを乗り越えて、日本人をかくまい養う人がいた。
胸が熱くなる話だ。
・・・しかし、運命とは皮肉なものだ。
こうした物語はとくに新しいものではないが、観ているうちにドラマには引き込まれていく。
現実にあった話だし、ヒロインの小林桂子の演技力も確かだ。
思いがけないラストシーンこそ、この映画のクライマックスだろう。
実に、感動的だ。
ドラマのラスト近くで、何と日本人俳優の川津祐介父娘が出演しているとは、妙な懐かしさでもあった。
小林桂子は主に中国を舞台に活躍する女優だが、この作品では製作総指揮とともに脚本も担当し、社会的価値を生み出す映画の上映と交流を、日本各地はもとより世界各地をまたにかけて、精力的に行なっている。
老母役のチャン・シャオホワはもとは京劇の役者で、芸歴50年のベテランで、渋い存在感があっていい。
ジャン・チンミン監督の日中共同製作映画「純愛 JUN―AI」は、俳優、アーティスト、映画スタッフにとどまらず、大勢の市民ボランティアの輪が世に送り出した作品だ。
いい映画だ。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
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大きなシネコンなどではお目にかかれない、作品でしょうね。
作品の質と観客の動員数とか、人気、世評は別ですものね。
いいものはいいのです。