映画の原作は、中国の蒲松齢(ほしょうれい)によって書かれた小説集「聊斎志異」の一編だ。
日本では、江戸時代の後期に伝わって翻訳、翻案され、芥川龍之介や太宰治らに影響を与えたといわれる。
1989年には、本書に収録されている「聶小倩(じょうしょうせん)」が 「チャイニーズ・ゴースト・ストーリー」として映画化され大ヒットした。
日本でも、つい最近中国連続テレビドラマとして放映終了したばかりで、あらすじは大体同じだが、こちらは出演者も全く違う、異質の「映画版」だ。
怪奇ロマンスという、これまでにない幻想的な世界観の悲恋物語として支持された作品で、すでに「画皮Ⅱ(原題)」も製作され、中国では公開されているといわれる。
ゴードン・チャン監督は、香港のヒットメーカーとして知られている。
ドラマは、人間に恋をした美しい妖魔と、あやかしに魅入られた夫の身を案じる、貞淑な妻の物語である。
秦から漢にかけての時代・・・。
将軍の王生(ワン・シェン)(チェン・クン)は、西域での合戦の最中に、砂漠の盗賊に捕えられていた若く美しい女小唯(シャオ・ウェイ)(ジョウ・シュン)を救出し、故郷に連れ帰る。
家に帰った王生は、愛する妻の佩蓉(ペイロン)(ヴィッキー・チャオ)に事情を話し、身寄りのない小唯を家に住まわせることにした。
しかし、この誰をも虜にしてしまう魅力を持つ美女は、人間の姿をした妖魔だった。
一目会ったときから、王生に恋をした小唯は、彼の心を手に入れるべく、様々な妖術を使って誘惑し、佩蓉から妻の座を奪おうとたくらむのだった。
それから3か月後、街では人の心臓が抉り取られるという殺人事件が相次ぎ、人々は恐怖に怯えてていた。
犯人は、砂漠に棲むトカゲの妖魔の小易(シャオイー)(チー・ユーウー)だった。
小唯と同じく人間に化けた彼は、自ら愛する小唯の下僕となり、奪い取った心臓を彼女のもとへ運んでいた。
小唯は、心臓を食べることで、人間としての美しい容姿を保っていたのだった。
・・・妖術によって王生を幻惑する小唯、妖魔に魅入られた夫の身を案じる佩蓉、嫉妬から小唯を疎んでいるのだと思い込む王生・・・、事態は着実に小唯の望む方向へと進んでいた。
夫の王生の軍の主将であった龐勇(パンヨン)(ドニー・イェン)と、この街にやって来た降魔師の娘・夏冰(シア・ビン)(スン・リー)は、魔物の正体を炙り出そうとするのだったが、人間と妖魔の間で渦巻く、深く悲しい愛憎劇の行方は誰にも想像できなかった・・・。
愛に生きた妖魔の女は、魔界の掟を破ってさえ、その切ない愛を止めることはできなかった。
妖魔の愛と妻の愛、二人の間に挟まれて身悶えする王生の愛のかたちが、大きなざわめきとなっていく。
ハイテンポで、中国流の少々奇抜な、そのぴりりとした切れ味が見ものだし、そこに怪奇という装置がかけられ、ヨーロッパやアメリカ映画などとは異質の、アジア的な幽鬼の世界に迷い込む楽しみはある。
ゴードン・チャン監督の中国映画「画皮 あやかしの恋」は、冒頭からスピーディーな展開ということで、時間たっぷり飽きることのない、妖艶なサスペンスである。
美貌と怪しい魅力で、王生を誘惑する妖魔の小唯を演じるのは、 「ウィンター・ソング」で主演女優賞に輝いたジョウ・シュン、愛する夫への揺るぎない誠実さと献身で、妖魔に立ち向かう佩蓉を演じるのは、この作品で最優秀主演女優賞を受賞したヴィッキー・チャオ、対立する役柄を演じる中国の二大女優の迫真の演技が、愛の持つ強さと儚さを精いっぱいに問いかける。
二人の間で苦悩する王生役のチェン・クンは美形スターだそうで、ドニー・イェンが繰り広げるアクションとともに、見ごたえも確かな一作だ。
小唯の妖術によって、佩蓉が白髪の老女に姿を変えられてしまうところなどは、ドラマの見どころだし、愛とはまたかくも悲しきものかと思わせるに十分である。
[JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点)
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たまたまテレビドラマでちょっとだけ見たのですが、そちらのほうが時間をかけて撮っているせいか、丁寧だった感じですね。
もっとも映画とテレビでは、時間の制約はどうしようもありません。
この映画、‘妖艶’といってもそれほどでもありませんから・・・。(笑)
やはり,中国文化の深奥には見るべきものがありますね。