戦後70年を経て明かされる、ドイツが隠し続けた衝撃の実録である。
独裁者の人間性に迫った「ヒトラー~最後の12日間」(2004年)で名高い評価を得た、ドイツの名匠オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督の作品だ。
前作では第三帝国末期に焦点を絞ったが、この作品では視点を変え、ナチスが侵蝕していく30年代の裏話が描かれる。
市井の主人公の、信念を曲げぬ生き様をリアルに映し出し、わずか13分の差で、世界の歴史が大きく変わったかもしれないと思わせる事件を綴った。
これまでのナチスものとは一線を画して、綿密なリサーチを重ねて書き上げられた脚本の力が大きい。
1939年11月8日、ドイツ・ミュンヘン…。
36歳の家具職人ゲオルグ・エルザー(クリスティアン・フリーデル)は、ナチス式典を行うビアホールに時限爆弾を仕掛けたが、たまたまヒトラーの演説が予定より13分早く切り上げられて、ヒトラーは退出した。
このためその13分後に時限爆弾が爆発し、8人が死亡、ヒトラー暗殺は未遂に終わった。
スイスに逃亡しようとしたエルザ-は逮捕され、刑事警察局長ネーベ(ブルクハルト・クラウスナー)と、秘密警察ゲシュタボ局長ミュラー(ヨハン・フォン・ビュロー)の厳しい尋問を受けた。
ゲオルグ・エルザーへの激しい拷問と彼の回想を通して、何故、平凡な家具職人がヒトラー暗殺を企てるに至ったかが、徐々に紐解かれていく。
事件の7年前、エルザ-は音楽とダンスと恋に興じる普通の青年だった。
しかしエルザは、ナチス内閣成立後、次第に社会の息苦しさを感じるようになる。
共産党員の友人が捕まり、ユダヤ人を恋人に持つ隣人が迫害され、暮らしていたのどかな小村に、ナチスの全体主義がじりじりと押し寄せてきていたのだった。
エルザーはスパイどころか所属政党もなく、たった一人で事件を実行したと主張し、対して秘密警察はどこまでも背後関係の追及にこだわり続けたのだったが・・・。
エルザーの回想には人妻との恋物語もあり、ありきたりの日常の自由の価値が浮かび上がってくる。
彼の拷問と回想が交互に描かれ、回想の田園風景が美しく、対比的に描かれる拷問シーンの絶望感がきりきりと胸に痛い。
ヒトラー暗殺計画は、シュタウフェンベルク大佐のワルキューレ作戦など40回以上あったとされるが、戦争突入を早期に予見し戦中で阻止に動いたといわれ、エルザ-の綿密な計画のもとに、精密な爆弾を一人で作ったというのは驚きである。
注目すべきは、そんな彼を、実は最も恐れていたといわれるヒトラーが、敗戦直前まで生かしたことだろう。
戦後長くエルザーは歴史に埋もれていて、偏屈な共産主義者とみなされ、東ドイツでは無視された。
復権の動きは90年代からだったといわれる。
巨大組織に疑問を感じ、一人で行動を起こし、立ち上がった。
たった一人でも世界は変えられる。
オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督のドイツ映画「ヒトラー暗殺、13分の誤算」は、一庶民の危機感からヒトラー暗殺を狙った主人公の視点から詳細に描かれたという点が、大きなな特徴といえる。
ゲオルグ・エルザーは逮捕後、ヒトラーの死の直前まで収容所で生かされ、処刑後もドイツ政府が彼の存在を隠し続けていた理由は諸説あり、さだかではない。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
今年も間もなく暮れていこうとしています。
どうぞ来たるべき良い年をお迎えください。
今年はこの辺で失礼します。
ではまた・・・。Au revoir!
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