徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「それでも、愛してる」―崩壊寸前の夫婦と家族の危機―

2012-09-03 06:00:00 | 映画

 

 いろいろとお騒がせのメル・ギブソン主演、その相手役がジョディ・フォスターという組み合わせだ。
 しかも、ジョディ・フォスターは監督も務め、一見コメディ風仕立ての、家族愛を描いた作品だ。

 フォスターは16年ぶりの監督作品になるそうで、ここでは順風満帆の人生を歩んで来た女性を自ら演じている。
 夫役のメル・ギブソンは、平凡だがどこか弱さを持つ男性を、コミカルと思いきやときにシニカルに演じて、彼の新境地を見せている。
 ごくありふれた家庭の崩壊寸前を描きつつ、夫婦と家族の心温まるアメリカ映画である。







      
玩具会社の二代目社長である、夫ウォルター(メル・ギブソン)との結婚20年を迎えるメレディス(ジョディ・フォスター)は、17歳のポーター(アントン・イェルチンと7歳のヘンリー(ライリー・トーマス・スチュアート)という2人の息子にも恵まれ、充実した日々を送っていた。

そんな時、夫にうつ病が発症、八方手を尽くしたが効果もなく、夫は居眠りばかりするようになった。
メレディスは、家事と育児を一手に引き受けて奮闘する。
夫が快癒するのを待ち続けるが、難しい時期に差しかかった息子たちのためにも、それぞれ今は一時的に別居するのが最善の道と判断し、心を鬼にするのだった。

ウォルターは、ついに自分の会社にも行けなくなっていたが、ある日、ゴミ箱に捨てられていたぬいぐるみの“ビーバー”に出合ったことから、奇跡が起こったのだった。
突然、自宅に帰ってきたウォルターは、うつ病がすっかり消えて、家庭でも会社でも頼りがいのある男になっていたのだ。
そして、会社では大ヒット商品が誕生し、業績も順調となって、メレディスには再び幸福が舞い降りてきたはずだったのだが・・・。

ドラマの中では、メレディスの心痛と奮闘は意外にさらりと描かれているが、暗闇でひとりしゃがみこんでいるところなど、彼女の悲しみをうまく表現している。
でも、うつ病を抱えて変わりきった夫に、自分が何もしてやれないという敗北感が彼女を苦しめる・・・。
・・・様々な浮き沈みを経て、家族の絆を取り戻すラストシーンを迎えるのだが、失われたものはあっても、家族の力を合わせていけば、家庭の崩壊の危機を乗り切ることができるのではと、言葉はなくても、お互いを許しあう姿が祝福の念まで呼び起こすのだ。

この作品では、うつにおちいったメル・ギブソンが演じるウォルターが、ビーバーのパペット(手や指で操りながら同時に話せる人形)を拾ったことで、自分の気持ちを吐露できるようになっていく。
ギブソンは、感情、態度に合わせて左手を動かし操ったりするテクニックを駆使し、ビーバーに新たな命が吹きこまれて、この演出がリアリティを生んだ。
それが大きな核ともなっていて、おとぎ話のようなアイディアが、面白い。
原題「THE BEAVER」はそこからつけられた。

ジョディ・フォスターは女性監督の立場で、うつ病というとても深刻なテーマを扱いながら、ナイーブでシニカルな描写がときに優しく、細部まで行き届いた演出に好感が持てる。
映画の始まりは、ハイコンセプトなコメディのように見せて、そこから先がこのドラマになるのだ。
日常起こりうる事柄を、細やかにとらえて、情感のあるストーリーが展開する。
新人カイル・キレンの脚本もよく、生きる希望を抱かせる書かれ方に、フォスターも惚れ込んだらしい。

彼女が真っ先にこの脚本を送ったのが、大親友といわれるメル・ギブソンだったそうだ。
近年トラブル続きだったギブソンに、フォスターが親友として転機となる作品を提供したわけだが、この作品のテーマが気に入ったギブソンは、見事にその友情に応えた。
ギブソンという俳優は、喜劇と悲劇を同時に表現できる稀有な役者で、この作品でも、これまでのイメージとは番う境地を開いている。
アメリカ映画「それでも、愛してる」は、ともにアカデミー賞受賞に輝くジョディ・フォスターメル・ギブソンとの組み合わせの妙で、普通の家庭に起こりうる家族のありようをリアリティ豊かに、思いやりある目で描いている。
厳しい現実を突きつけておいて、苦悩の体感を乗り越え、ジョディ・フォスターは、それでも人は生きてゆくことができると告げるのだ。
     [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
鬱・・・ (茶柱)
2012-09-03 23:15:59
なかなかに現代では鬱になる人が多くて大変なようですね。どうにも心と義務のバランスがとれずに。

もう少しゆるーい世間になると良いなとは思うのですが。
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私にも・・・ (Julien)
2012-09-05 00:55:57
鬱で苦しんでいる知人がいるのですが、もう何年も入退院を繰り返しています。
何といっても、本人が一番つらそうです。
一向に改善されないようで、家族ももちろん大変のようです。家族は、いっそずっと病院にいてくれたほうがどんなにいいかと、泣き言を言っています。
こういう世の中ですから、なかなか難しいかもしれません。
大きな社会問題です。
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