これは、人間の在り方、生命の在り方を写真という記録で残した、映像叙事詩である。
「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の巨匠ヴィム・ヴェンダース監督が、地球上の最も美しい場所を探し求めて、圧巻の風景を写し出した写真家セバスチャン・サルガドの軌跡をたどる、ちょっと異色のドキュメンタリーだ。
サルガドは「神の眼」を持つ写真家といわれ、この作品はそんな彼の素顔に迫る。
ヴィム・ヴェンダース監督は、自らも写真家であり、彼がある日出会った一枚の白黒写真がセバスチャン・サルガドに強く惹かれていくきっかけとなった。
その写真とは、住む場所を追われて難民となったトゥアレグ族の盲目の女性が写されていて、その底知れぬパワーに深く心を揺さぶられたと語っている。
今世紀最も偉大な写真家といわれるセバスチャン・サルガドは、ブラジル生まれ(1944年~)の本来世界的な報道写真家であり、大自然の保全や復元に尽力する環境活動家でもある。
「神の眼」と呼ばれる奇跡的な構図、モノクロ基調の美しく荘厳な数々の作品に心を奪われる。
この地球上に生きる人間を捉え、死、破壊、腐敗といった根源的なテーマを扱ってきたサルガドが、戦争、難民、飢餓、虐殺といった、人間の弱さ、脆さ、悶えを直視し続け、その苦悶と絶望の果て(!)に見出したものは果して何だったのだろうか。
現在も、地球上に残る未開の場所、ガラパゴス、サハラ砂漠、ブラジル熱帯雨林など、生と死が極限に交わる、ありのままの地球の姿をカメラに収めた。
サルガドの撮り続けた一枚一枚の写真は、本当に凄いという感じがする。
人間の闇を見つめ続け、それら胸打たれるリアルな構図に、これが今の地上の世界なのかと目を覆いたくなるような写真も・・・。
日常生活の中で、テレビの画面や一般の映画では私たちが決して見ることのない、敢えて悲惨、残酷なシーンも見せつけられると、何やら、地球が滅亡へ向かっているかのような不気味さも感じられてくる。
それはまさに絶望であった。
しかし、その絶望の先に見えてくる希望があるとすれば・・・。
それは、かけがえのない地球最後の楽園の姿を見つめる、セバスチャンのレンズだ。
フランス・イタリア・ブラジル合作のドキュメンタリー「セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター」は、希代の一写真家の人生をたどる旅へとつながる貴重な一頁だ。
この映画には、共同監督としてサルガドの長男、ジュリアーノ・リヘイロ・サルガドも名を連ねている。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
次回はフランス映画「わたしの名前は・・・」を取り上げます。
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未知のものを知る、新たなる驚き、美しさ、悲しさ、喜び・・・。
知らなかったものを知る。
映画、映像、写真て貴重なものですね。
そのことの「存在」の証拠であり、証明ですものね。
それが現代ですね。芸術的であるかないかにかかわらず。