運命に引き裂かれた愛があった。
1958年(昭和33年)にテレビ放映されたときには、大きな反響を呼んだ。
ベテラン橋本忍の脚本に負うところが大きい。
今回の作品は、あれから50年、家族愛や人間ドラマをより深く掘り下げてはいる。
橋本忍という人は、一度完成させたシナリオを、自ら手直しすることのない作家だそうだが、今回に限って大幅に改訂し、「完全版」として仕上げた。
数々の黒澤明監督作品にかかわった力量を感じさせる。
今回この映画の福澤克雄監督は、テレビドラマ「華麗なる一族」を演出したディレクターで、この作品が長編映画の初監督作品になる。
清水豊松(中居正広)は、高知の漁港町で理髪店を開業していた。
妻の房江(仲間由紀恵)と、一人息子の健一(加藤翼)がいた。
決して豊かではないが、家族三人でつましく何とか暮らしていた矢先、戦争が激しさを増し、豊松にも赤紙が届く。
豊松は、本土防衛のために編成された部隊に配属され、そこで彼は米兵の「処刑」を命じられる。
立木に縛られた米兵に、豊松は歯を食いしばりながら、銃剣を向ける・・・。
やっとの思いで戦地から帰り、娘も生まれて家族も増え、これからというときに豊松を待っていたのは、戦犯容疑での逮捕、そして裁判の日々であった。
豊松は、実際は米兵にかすり傷を負わせただけだったが、判決は絞首刑であった・・・!
映画出演6年ぶりという、主演の中居正広の熱演も伝わってくるが、どうも人気先行のきらいがないでもない。
出演はほかに上川隆也、石坂浩二、笑福亭鶴瓶らで、さながら人間ドラマの感がある。
映画「私は貝になりたい」という言葉を際立たせる、「美しい海、日本の風景、四季」を求めて、日本の海岸線をほぼ一周し、高知、山陰などで、1年がかりで実景撮影を行ったそうで、映画ならではのスケール感が出ている。
故フランキー堺が、かつて主役を演じた作品だが、いままたここに甦った。
いまも、地球上のどこかで起きている、戦争という不条理のもたらす悲劇を忘れてはならない。
戦争からは、何も生まれない。
生まれてくるのは、破壊だけである。
戦争の悲劇というより、家族愛がこの作品では重んじられた感じが強い。
悲劇性をあまり感じさせなくて、登場人物の苦悩がやや表層的で、十分に描ききれていない気がする。
橋本忍は、もう90歳のはずである。
彼の脚本としては、入魂の作品だ。
それから、壮大な映像と相まって、全編に流れる、久石譲の映画音楽がとくに素晴らしい。
久しぶりに聞く、いい音楽だ。
演奏は、東京フィルハーモニー交響楽団だ。
・・・深い海の底なら・・・戦争もない・・・兵隊もいない・・・
どうしても生まれ変わらなければいけないのなら・・・
私は貝になりたい・・・(原作より)
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フランキー堺氏のラストシーンは、未だに記憶に残っています。何かの番組で見た、ラストシーンだと思います。
戦争の理不尽、登場人物の耐え難い苦悩とか・・・。
もう一歩踏み込んで、もっと、突っ込みがあってもいいような・・・。
橋本忍だけに、惜しまれます。
監督の力量でしょうか。