フランス映画界の至宝ジャンヌ・モローと聞いただけで、注目せずにはいられない。
まことに、久しぶりではないか。
かつて、ルイ・マル監督の「死刑台のエレベーター」(57)、フランソワ・トリュフォー監督の「突然炎のごとく」(61)など、名監督たちの傑作に出演し、時代の寵児であった。
その御年85歳になる名優ジャンヌ・モローを擁して、エストニアの新鋭イルマル・ラーグ監督の描く作品は、憧れのパリにやって来た家政婦と高級アパルトマンで暮らす老婦人の物語だ。
エッフェル塔、凱旋門、カフェにクロワッサン、そしてシャネルといったパリの素顔を背景に、境遇の異なる二人が生きる歓びを見出すまでを描く、感動の実話である。
作品の出来もよい方だ。
雪深いエストニアの田舎町・・・。
アンヌ(ライネ・マギ)は、夫とも離婚し子供たちも巣立ったあと、2年間介護した母が息を引き取った時には、心身ともに疲れ切っていた。
そのアンヌに、パリで家政婦の仕事が舞い込む。
アンヌは心機一転、憧れのパリへ旅立つが、彼女を待ち受けていたのは、高級アパルトマンに独りで暮らす気難しい老婦人フリーダ(ジャンヌ・モロー)だった。
実は、雇い主はカフェを経営するステファン(パトリック・ピノー)だったが、フリーダは家政婦など求めていなかった。
フリーダは不機嫌になり、訪れてきたアンヌを冷たく追い返そうとするのだったが・・・。
二人の女の間で、相容れない感情がぶつかり合うが、それも時とともに変化が現われ始める。
気難しく頑固な老婦人フリーダと、孤独な心でパリの夜の街をさまようジャンヌ・・・。
ステファンとフリーダが、実は若い頃年の離れた恋人同士だったことや、フリーダがはるか昔にパリに来て、エストニアとは縁が切れ、友人もいない天涯孤独の身であることがわかってくる。
ジャンヌ・モローの存在感はさすがで、老優健在なりだ。
フランス、パリ、紅茶、、クロワッサン、シャネル、メイドとくれば、まさに貴婦人はやはりジャンヌ・モローということになるのだろうか。
この映画は、二人の女性が中心にいて、馴染みの名前ではないが、好演のライネ・マギはエストニア生まれで、この作品が初めての主役作品であり、パリの家政婦って、こんなにも颯爽としていてカッコよいものなのか。
フランス・エストニア合作の「クロワッサンで朝食を」は、イルマル・ラーグ監督の母の実人生がこのサック品のもととなった。
老女のフリーダは、もちろん自分の死期を知っていて、生きる歓びさえもなくなって、誰かがそばについていなければならない。
ロマンティックな人生を求め、家族や故国からも離れ、強い孤独にさいなまれている。
一方のアンヌにしても、ステファンにしても、それなりの人生があったが、これから何をしたいのか不確かなアンヌ、フリーダの支配から解放されたい(?)ステファン、彼らが今後自分らしく生きるために何を必要としているのか。
映画は、そのあたり、日常的風景をきめ細かく撮りながら、ほどほどの説得力もあって、二人の行方に関心が高まるのだ。
ドラマは、孤独な二人の女の魂を追うように、ぎくしゃくとしたお互いの心の動きを緻密な演出で見せる。
頑固なフリーダが、新しい家政婦に少しずつ心の扉を開き始めるのだが、本作でのジャンヌ・モローのように誇り高く女を捨てずに生きるには、日本のような国の環境ではまだまだ難しいかも知れない。
この作品のために用意されたジャンヌ・モローのシャネルファッションは、ココ・シャネルと親交あったモロー自身のすべて私物だそうだ。
シャネルの自宅に会った屏風や手縫いのイヴ・サンローランのカーテンなど優雅なインテリアも必見で、これが本物のパリジェンヌの暮らしなのだろうか。
この作品の、また別の見どころだ。
そのせいか圧倒的に女性に人気の作品で、公開初日は行列ができたほどだ。
どこまでもジャンヌ・モローの映画である。
それから、確かモダンジャズを取り入れた素晴らしい作品だったが、傑作の誉れ高いフランス映画「死刑台のエレベーター」も、近々再上映されるようだ。
もう一度、観てみたいものだ。
[JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
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そんな感じがしますね。
実際のフランスがおしゃれかどうかは存じませんが・・・。
茶柱様。
それに、地下鉄に乗れば、あちらもこちらもスリだらけだそうで、これ、現地のフランス人が言っているのですから・・・。
フランスと聞くと魅力的な国ですが、裏に回れば、ぐちゃぐちゃなんですね。
日本も同じです。そっくりですわ・・・。
美しい国なんて、幻想(?!)なのです。
はい。
霜葉様。
老優健在、さすがですね。
この映画は、もしかすると霜葉様好みの作品かも・・・。
「クロワッサン~」は、是非機会がありましたらご覧になって下さい。懐かしい人に会えます。
しかし、いま85歳ということは、初めてモローをスクリーンで見たとき、すでにあのとき彼女は40歳近くだったのかと・・・。
う~む、残念ながら、それより若かりしころのモローを存じません。