徒然草

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映画「ミス・シェパードをお手本に」―ユーモアたっぷりでちょっぴり切ない英国式人生讃歌には痛快な味わいも―

2016-12-31 13:00:00 | 映画


 イギリスを代表する劇作家のひとり、アラン・ベネットが経験した実話をもとにした作品だ。
 偏屈なホームレスの老人と、シニカルな劇作家の奇妙な触れ合いを描いたこのドラマは、1999年に舞台化されたものだ。
 今回、老女をマギー・スミス、相手役の劇作家をアレックス・ジェニングスと、どちらも舞台と同じ二人の俳優が演じ、これまた舞台と同じ演出のニコラス・ハイトナー監督が映画化した。
そうなのだ。
イギリスのヒット舞台劇を、そっくり同じ陣容の顔ぶれで作り上げた、イギリス風の正統派の喜劇だ。









1970年代の、ロンドンの高級住宅地カムデンタウン・・・。
文化人が多く住むエリアに引っ越してきた劇作家のベネット(アレックス・ジェニングス)は、通りに停めたオンボロの黄色い車で生活するミス・シェパード(マギー・スミス)と出会う。
近所の住人達は、年老いた彼女を心配して世話をやくが、お礼を言うどころか悪態をつくばかりで、らちがあかない。
ある日、駐車をとがめられている彼女の姿を見かけたベネットは、親切心から自宅の駐車場をひとまず避難場所として提供する。

・・・それから15年、ミス・シェパードはその駐車場に居座り続け、ベネットと二人の奇妙な共同生活を送っている。
ベネットはゴミや悪臭に悩まされながらも、どうやら変わった過去のありそうなミス・シェパードに、作家としての好奇心を募らせていく。
彼女の高飛車な態度や、突飛な行動に頭を抱えつつも、二人の間に不思議な友情が生まれていたのだった・・・。

ああ言えばこういうお婆さんをさっさと追い出そうとする気持ちと、このくらいは大目に見てもいいと思う引き裂かれた心情を、アレックス・ジェニングスが一人二役で見せる。
はじめはわからなかったが、この分身を登場させる手法は面白いアイディアで、よくできた脚本だ。
そっけない分身と違って、彼女の身を世話焼きの婆さん風に演じるもう一方の分身は、自分の母親の老いと重なって思いは複雑だが、そんな気持ちはミス・シェパードには通じない。
何といっても、親切にされてあたり前だと思っている。
頑固で偏屈で、自分勝手な主張だとわかっても、ホームレスの女性と作家の気持ちが微かに触れ合うところに、ユーモラスな笑いが生じる。

ドラマはテンポもあって軽妙な語り口が心憎い。
マギー・スミスは今年82歳だが、なかなかしたたかな老女から純真無垢な童女まで、みすぼらしい外見ながら実は高い教養を持つ複雑なヒロインを、味わい深く好演している。
原作者アラン・ベネット役のアレックス・ジェニングスは、彼女への同情心と、文化人特有の罪悪感みたいなものがないまぜになって、その複雑な心境を上手く体現している。
そう、この名優二人の丁々発止が絶妙で、作品を盛り立てているのだ。

心温まる二人のやりとりもいいが、孤独に生きる者の切なさも浮かび上がって、ほほえましいドラマである。
人間関係のしがらみや、物欲にとらわれない自由な生き方をシェパードに見せられて、見ている方もいくらか心が豊かになったような気分に浸れる。
ボロは着てても心は錦というではないか。
ポンコツ車に乗ってやってきた、年老いたレディの何とも言えない魅力が、ニコラス・ハイトナー監督イギリス映画「ミス・シェパードをお手本に」にはいっぱいに溢れている。
話の内容はほとんど真実だそうで、そつがなく哀切さの漂う作品だが、まあ見て損のない映画だ。
        [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点
次回はドイツ・フランス・カナダ・スウェーデン・ノルウェー合作映画「誰のせいでもない」を取り上げます。

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