徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「ジュリエッタ」―死と罪と愛の運命に翻弄された母と娘の物語―

2016-12-09 12:00:01 | 映画


 親子の絆の問題を、正面から取り上げた作品だ。
 原作はノーベル賞作家アリス・マンローの短編集で、その中の3作が再構成され、回想的な形式の見事なミステリーとなった。

 女性讃歌の3部作ともいわれる「オール・アバウト・マイマザー」(1999年「トーク・トゥ・ハー」(2002年)、「ボルベール」(2006年)などで知られる、スペイン名匠ペドロ・アルモドバル監督の作品だ。
 本作では、人間の避けられない運命について、深みのある語り口で、ドラマティックな新作を誕生させた。
 母と娘の相克のドラマを通じて、女性の心の繊細さと奥の深さが濃密に描かれる。








(現在)
スペインのマドリードでひとり暮らし意をしている中年女性ジュリエッタ(エマ・スアレス)は、街角で古い知人の女性ベア(ミシェル・ジェネール)に会い、「イタリアであなたの娘を見た」と告げられる。
ジュリエッタのひとり娘アンティアは、12年前に不可解な失踪を遂げて以来、ずっと音信不通になっていた。
ジュリエッタは行方不明の娘に宛て、自分の半生を回想する手紙を書き始める。

(過去)
30年ほど前に古典の臨時教師をしていた25歳のジュリエッタ(アドリアーナ・ウガルテ)は、ショアン(ダニエル・グラオ)というハンサムな漁師と恋に落ち、結婚して娘アンティアにも恵まれた。
娘が9歳になったとき、夫のショアンは漁に出て嵐に遭い、死んでしまう。
ジュリエッタは、残された娘を唯一の生き甲斐として仲睦まじく暮らしたが、18歳を迎えた娘は瞑想のためのキャンプに出かけて、二度と帰らなかった。
あらゆる手段を尽くしても、娘の居所は解らず、半ば錯乱状態となった彼女に残された生きる道は、娘の存在を無理やり忘れ去ることだった・・・。

(現在)
娘アンティアの元親友であるベアの目撃情報によって、必死に打ち消したはずの娘の記憶がよみがえったジュリエッタは、手紙に過去のすべての真実を記し終える。
そして、出来ることならもう一度、この手で最愛の娘を抱きしめたい。
そんなジュリエッタの切ない願いが通じたかのように、彼女のもとに一通の封書が届く・・・。

ドラマでは、ショアンの住む港町の一軒家での、ショアンの妻と無愛想な家政婦との相克などもあるのだが、それらは簡潔に描かれている。
ジュリエッタが、初めて夫となるべきショアンと出会った列車に出てくる自殺者のエピソードなど、伏線も巧みである。
感覚派のアルモドバルらしく、親子三代の断絶という運命的なドラマで、画面も赤を基調としてくっきりとした色彩設計が冴えている。
母と娘が隠してきた心の闇が、少しずつはがされていく構成、脚本は見事だ。
互いの苦しみに気づいた母と娘が、最後に選択する決断が胸を打つ。
深い余韻をもって・・・。

男女の出会い、母娘の葛藤などのエピソードの断片を運命の糸のように織り込んで、映画は終盤まで一気に見せる。
スペイン映画「ジュリエッタ」は、30年前に夜行列車の中で、漁師のショアンと運命の出会いをした場面から、徐々にそれまでのことが解き明かされていくが、様々なエピソードが目まぐるしく展開する。
映画では、ジュリエッタの心理が巧みに表現されていて、心地よい。

主人公ジュリエッタ役には、アルモドバル監督は二人の女優をはじめて適用している。
スペインの女優エマ・スアレスが“現在”のジュリエッタに扮し、NHKで放送されたTVシリーズ「情熱のシーラ」(2013年~2014年)で脚光を浴びた新進女優アドリアーナ・ウガルテが、“過去”の若き日のジュリエッタを演じている。
彼女たちも、アルモドバル監督の新たなミューズとなるのだろう。
いずれにしても、ミステリアスで女性を輝かせるメロドラマだが、魅惑的な映像世界が楽しい。
        [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点)
次回はイタリア・フランス合作映画「五日物語 3つの王国と3人の女」を取り上げます。