徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「秋の理由」―60歳を迎えた作家と編集者らを取り巻く人々の織りなす人間模様―

2016-12-18 18:00:00 | 映画


 詩人でもある福間健二監督が、人生の黄昏時を迎えた二人の男の創作やこだわり、恋と格闘するさまをざらざらとした感触で描き出した。
 ひとりでは生きてゆけない。
 でも、ひとりで生きている自分がここにいる。

 原作は2000年に出版された福間健二の同題の詩集で、その中にある詩のフレーズが生きることとこの世界への問いかけとなって、人物たちを動かしていく。
 秋は悲しく、どこかで誰かが泣いている・・・。
 福間監督は、これまでも新しい語りかたと魅惑を探ってきたが、この作品は60代を迎えた二人の男の友情を軸に、この世の'迷路'で生きる人間像を浮かび上がらせようとしている。
 福間監督5作目の作品である。







宮本守(伊藤洋三郎)は本の編集者で、友人の村岡正夫(佐野和宏)は作家だ。
村岡は代表作「秋の理由」以降、小説を発表していない。
精神的な不調から声が出なくなり、筆談器を使っている。
宮本は村岡の才能を信じ、彼の新作を出すことを願っている。
そして実は、村岡の妻美咲(寺島しのぶ)のことが好きなのだ。

宮本の前に、「秋の理由」を何回も読んだというミク(趣里)が現われる。
ミクは「秋の理由」のヒロインに似ていて、宮本の心を読むことができる。
宮本は、美咲への思いをはっきりと自覚する。
その一方で、美咲と村岡との関係は険悪になっている。
村岡は書けないことの苦悩から、正気と狂気の間を揺れ動き、自分の傍に宮本がいることを苦痛に感じて、宮本にそのことを口にしてしまう。
宮本は怒りを爆発させる。村岡に、自分に、そしてこの世界のありかたに・・・。

福間健二監督は、二年前に「佐藤泰志そこに彼はいた」という一冊を出して、自死した作家佐藤泰志のことを書き切った。
福間監督は、この作品に彼のモデルとも思われる人物を登場させた。
書けない作家村岡と佐藤泰志は重度の不安神経症で、自殺未遂するところが重なるのだ。
しかも、佐藤泰志は首を吊って死んでしまったが、村岡はそうはならなかった。
彼は死にきれずに入院し、目覚めた病院の窓から秋の空を見上げる。
二人の男に一人の女の物語だ。

福間監督のこの作品「秋の理由」には人の歩くシーンがよく出てくる。
みんなよく歩いている。
そして、公園の紅葉、金木犀、どんぐり、秋の様々な雲、これら自然と人物の絵模様が繋ぎ合わされ、かすかにきしみ合っている。
この映画には詩的透明感がある。
福間監督は、自著の詩集を自分の意のままに映像化して見せたが、やはり映画といえどもドラマとして見たとき、登場人物の気負い過ぎは気になるし、セリフが固くて、よくこなれていないのも気になる。
舞台演劇ではなく、これは映画だ。
だが、ドラマとしてはインパクトが弱い。
そう思いつつも、ラストまで付き合って少々疲れました・・・。
      [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
次回は日本映画「雨にゆれる女」を取り上げます。