徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「僕たちの家に帰ろう」―滅びゆく文化と少数民族への哀惜―

2015-11-28 20:00:00 | 映画


 中国の少数民族“ユグル族”の幼い兄弟がたどる、過酷なシルクロードの旅・・・。
 長い道のりの果てに、彼らは何を見たか。
 母なる大河は干上がり、父なる草原は枯れ始めている。

 リー・ルイジュン監督中国映画だ。
 13億人もの人口を誇る多民族国家・中国にあって、9世紀末にはその数30万人はいたといわれ、今は1万4000人しかいないという少数民族が“ユグル族”だ。
 古代シルクロードの一部として繁栄した、中国北西部〈河西回廊〉を舞台に、その“ユグル族”の幼い兄弟が離れ離れに暮らす両親のもとへ帰る途中、様々な出会いと別れを経験して成長していく姿を、雄大な自然を背景に描いている。
 リー・ルイジュン監督が、どこまでも優しい眼差しで少年たちをカメラで追った人間ドラマだ。






両親が放牧する土地を求め、より奥地に移住するため、兄のバーテル(グオ・ソンタオ)は、祖父のもとで暮らし、弟のアディガー(タン・ロン)は学校の寮に住んでいる。
兄は弟が母親の愛を独占していると思い込み、弟は兄だけが目をかけられていると感じ、互いに嫉妬し合っていた。

夏休みが来ても、父が迎えに来てくれなかったことから、アディガーは拗ねる兄バーテルを説得して、父母を探すため、二人きりの旅に出る。
二人は広大な砂漠をラクダにまたがり、干上がってしまった河の跡を道しるべに、ひたすら荒野をたどっていく・・・。
痩せて枯れた大地、見捨てられた廃村、崩壊した遺跡、回廊の変わりゆく風景は、光り輝いた大地が工業化で消滅し、伝統が新しい社会へと変貌していく様を見せつける。
・・・いつしか二人の旅は、彼ら“ユグル族”としてのアイデンティティの探求へと変わっていく・・・。

出演の少年は、現地に暮らしている子供たちをキャスティングし、ラクダに騎乗する訓練ももちろん、言葉の訓練もしたという。
少年たちは現代文明を知らない。
映画やテレビも知らない民族だ。
そんな彼らの価値観は・・・?

かつては一大国家を築いた歴史を持ちながら、移り変わる時代の波にのまれ、今や文字も言葉も廃れてしまった。
滅亡してゆく民族と文化への哀惜が、作品の中に滲む。
社会を発展させた代償として、中国が抱える、環境破壊の問題をも提起している。
土地の砂漠化は急速だし、水深2メートルの湖は4年で干上がってしまった。
そこを兄弟たちはラクダで進む。
ラクダは途中で逃げ出す一幕もあったが、大体よくなついている。
一家で耕した草原は、本来なら青々とした水草生い茂る故郷であったはずだが、いまは見る影もない。
このシーンは、兄弟の幻想と重なって印象的だし、土地が壊れ、家族のつながりが壊れ、広大な荒野を背景に、神秘的な様相を感じさせる。
だが、兄弟二人の目の前で、希望や夢は砕けていく。

この作品のロケ地は、世界中の秘境愛好家から高い評価を受けた甘粛省にあって、石窟が美術など重厚な風情を今に残している。
観光名所となっているところもあり、時が止まったままの数多くの風景はスクリーンを飽きさせない。
リー・ルイジュン監督中国映画「僕たちの家に帰ろう」は、重厚な映像が物語る中国辺境の現実を伝えて、ドキュメンタリーの趣きもある。
二人の少年の演技は、とにかくどこまでも自然体で好感が持てる。
“ユグル族”の生活、習慣についてはあまりここでは詳しく描かれていないのが、残念といえば残念だ。
同じ地球上とはいえ、かなり違うようだ。
      [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点
次回はロシア映画「裁かれるは善人のみ」を取り上げます。