徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「わたしはロランス」―痛烈で壮麗な愛のパラドックス―

2013-11-19 22:00:00 | 映画


 女性になりたい男性とその恋人の、10年にわたる軌跡をファッショナブルに描いている。
 この映画製作当時、弱冠23歳のカナダ人監督グザヴィエ・ドランが、3本目の長編として逆境の愛をちょっぴり切なく美しく綴る物語だ。
 才気と感覚の光る、若き才能の作品が心を揺さぶる。

 愛し合う者たちの前には、様々な高い壁が立ちはだかる。
 彼らは、それをどう乗り越えるのか。
 どこにも行けない“愛”に挑戦する二人の、ある特別なラブストーリーだ。















      




 
カナダ、モントリオール・・・。

国語教師で作家を目指すロランス(メルヴィル・プポー)は、美しく情熱的な女性フレッド(スザンヌ・クレマン)と恋をしていた。
ロランス35歳の誕生日に、彼はフレッドに愛を告白する。
「僕は女になりたい。この体は間違えて生まれてきてしまったんだ」
二人の愛に変わりはないのだが、フレッドにはこれまで築いてきたものが、否定されたように思えた。

しかし、ロランスを失うことを恐れたフレッドは、彼を受け止めようとし、彼がメイクから服装まで女装する手助けまでする。
モントリオールの田舎町で、二人は好奇の目にさらされ、生活するのに困難が付きまとうようになり、どんどん鬱状態に落ちていく・・・。

物語が始まって10年後、作家となったロランスが取材に答えて、フレッドのことを回想する形でドラマは展開する。
記憶の中には、幻想もある。
二人の間には、様々な葛藤があり、その思いは映画や音楽、美術、衣装で表現される。
しかし、自分の愛する男性が派手な女装をして、日々生活するとなると実際大変だ。
外見は女になっても、フレッドにとって愛する男性に変わりはないのだが・・・。
ともあれ、この世にはロランスみたいな人も意外に少なくはないというから、聞いて驚く。

ここのドラマでは、ロランスの行動を理解し、支えようとするフレッドの心の揺らぎが、かなり正確に描かれている気がする。
彼女の普通の結婚、出産、家庭の営みは崩れ、ロランスとの別れの場面、再会で堕胎を告白する場面、しかも肉体的には性転換などなく、立派な男であり女である二人の生き方に対する執着の様は、あるがままに映し出されている。
この辺りは、男の身勝手があるようで少し理解に苦しむところだ。

ロランスの母親ジュリエンヌ(ナタリー・バイ)は、真の人生を求める息子を愛情を持って見守っており、ここでは辛辣な場面も描かれているが、存在感はたっぷりだ。
フランス・カナダ合作映画「わたしはロランス」は、愛する歓び、自分らしく生きることの心地よさを、いささか大げさな仕掛けで描いている。
強い風の吹く中で踏み出す、一歩を映し出すラストシーンがいい。
美しい痛みを持った、それでいてゴージャスさ溢れる佳作である。
     [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点


映画「黒いスーツを着た男」―人生の成功を目前にして男の運命が狂い始めたとき―

2013-11-19 20:45:00 | 映画


フィルム・ノワールの色濃い、ドラマティックなちょっとしたクライム・サスペンスである。
それは、人生の成功を手に入れるまであと10日のことであった。
カトリーヌ・コルシニ監督フランス映画だ。

この映画、「アラン・ドロンの再来」とまで母国フランスでメディアが大絶賛する、主演のラファエル・ペルソナーズに注目だ。
それほどよく似ている。
この2013年だけでも、6作もの主演作品が公開予定なのだそうだ。
そのペルソナーズが、あの「太陽がいっぱい」アラン・ドロンを髣髴とさせる、美しき犯罪者を演じる。
完璧な人生だった、あのときまでは・・・。
しかし、災厄というものは、いつだって何の予兆もなく、突然降りかかるものだ。
この映画のように・・・。




          
自動車ディーラーに勤務するアル(ラファエル・ペルソナーズ)は、一修理工から地道な積み重ねで出世し、ついに社長令嬢との結婚を10日後に控えていた。

だが、深夜のパーティーで羽目を外して、パリの街角で運転中に男を轢いてしまった。
呆然となって車を降りたアルだったが、仲間に促されるまま逃走する。

その一部始終を、アパルトマンのバルコニーから偶然見ていたのが、医者志望のジュリエット(クロチルド・エム)だった。
救急車を呼んで被害者を助けたジュリエットは、翌日病院を訪れ、昏睡状態で眠っている男の妻ヴェラ(アルタ・ドブロシ)と出会う。
ヴェラとその夫は、貧困にあえぐモルドヴァからの移民で、不法労働者だった。

一方、罪の意識と闘いながら出社したアルは、新聞で目撃者がいると知って動揺する。
被害者の容体を確かめに病院へ行き、昏睡する男を見て愕然とする。
この時、病院で、事故現場から去った黒い影に似たアルを見たジュリエットは、昨夜の犯人だと確信し、ヴェラには内緒でアルの居所を突き止めるべく尾行する・・・。

将来を約束されていた犯罪者と、目撃者の女と、犯罪者の妻、三人の運命が交錯する。
アルは、結婚をまじかに控えた「逆玉の輿」の男であり、事故のうしろめたさの狭間で葛藤する。
彼は周囲から孤立していき、自らの静寂な孤独と正面から向き合わなければならない。
そして、被害者はことを公にされたくはない不法入国者で、ここにこのドラマのもうひとつの悲劇がある。
フランス映画「黒いスーツを着た男」は、サスペンスフルな心理ドラマを展開する中で、罪の意識、良心の呵責、重ねた嘘、将来への不安、、モラルとは何か、命の重さ、お金の価値、人生の価値、移民というヨーロッパの抱える社会問題まで浮き彫りにされ、様々な問いを投げかける。

スリリングな緊張感が、何とも言えない。
小品ながら、物語はよく練られいる。
主人公は、微妙な心の揺れを見事に表現している。
犯すつもりのなかった罪を背負った男と、その事故に巻き込まれた二人の女と・・・。
思惑と葛藤が絡まり合って、ラストまで先の読めないドラマが展開し、スクリーンから全く目が離せない。
二人の女性の演技もさることながら、短いながらあくまでも映画的に練られた作品として、見ごたえ十分だ。
フランスの実力派監督カトリーヌ・コルシニ、日本初上陸の美形の新星ペルソナーズともども、フランス映画健在を目の当たりに見せてくれる。
     [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点