徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「危険なプロット」―人間が持つ毒と日常に潜むさりげない狂気―

2013-11-16 22:40:00 | 映画


 ・・・これは虚構なのか、現実なのか。
 本国フランスで、120万人を動員したヒット作品だすだ。
 トロント国際映画祭批評家連盟賞サンセバスチャン国際映画祭では最高賞の作品賞脚本賞をW受賞し、国際的な評価が高まっている。
 フランソワ・オゾン監督の、いかにもフランス映画である。

 ストーリーは、ちょっとした官能とユーモアに満ちた、高校の国技教師と教え子の関係性をめぐる、サスペンスをはらんだ緻密な人間ドラマだ。
 フランソワ・オゾン監督の仕掛ける、妖しくスリリングな駆け引きは、心理戦の緊張を高めつつ、やがて、常識と想像をはるかに超えた結末へと導いていく・・・。








作家になる夢をあきらめて、高校の国語教師ジェルマン
(ファブリス・ルキーニ)は、画廊で働く妻のジャンヌ(クリステン・スコット・トーマス)と二人暮らしだ。
ジェルマンは、凡庸な作文の添削にうんざりした退屈な日々を送っていた。
ところが、新学期を迎えたばかりのある日、生徒クロード(エルンスト・ウンハウワー)の書いた作文に心をつかまれる。
それは、クラスメイトとその家族を皮肉たっぷりのトーンで描写したものだったが、ジェルマンは、人間観察の才能を感じ取り、クロードに小説の書き方を個人指導していく。

ジェルマンの手ほどきを受けて、クロードは眠っていた自分の才能を開花させる。
彼はクラスメイトの家の中を覗き見し、美しい母親を‘観察’し、次々と彼流の‘新作’をジェルマンに提出してくる。
もとはといえば、数学を教えるという口実で、新しい級友の家庭に入り込み、彼の母親(エマニュエル・セリエ)の魅力に取りつかれた高校生だ。
その彼が課題で綴る刺激的な小説世界、教師と生徒との微妙な関係、そしてさらに、それらを映画という虚構の中に描くから、まるで芸術の迷宮に潜り込んでしまったような感覚にとらわれる。
ジェルマンは次第に、クロードの紡ぎだす物語に絡められ、次から次へと続編を求めるようになり、とうとう現実の歯車が狂い始める・・・。


ドラマの始まりはいたって単調だ。
物語が進んでいくうちに、観客はジェルマンとともに、クロードが紡ぎだすストーリーの中に引き込まれ、いつしか現実とフィクションの間にある混乱に取り込まれていく。
それは、魅力的な文学と出会ったとき、ページをめくる手が止まらなくなるのと同じだ。
物語はミステリアスな展開を繰り返しながら、特訓するジェルマンに触発されて、クロードの現実と虚構の世界は境界線を越え、「危険なプロット」へと進む。
どこまでも冷静な語り口で、緻密な脚本は上質な匂いを放ち、ちょっぴり魅力的な風刺劇の様相とオゾンの遊び心が融合して・・・。

夢のシーンがあり、現実のシーンがあり、虚構のシーンがある。
そして、現実と想像が最後に混ざり合ってひとつになる。
どこが現実で、どこが嘘なのか。
見分けがつかないのである。
フランソワ・オゾン監督のオゾン流風刺劇「危険なプロット」は、上質なユーモアを含んで、皮肉たっぷりの知的サスペンスを散りばめた小品だ。
     [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点