徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「トランス」―記憶の迷宮でせめぎ合う男女の欲望―

2013-11-03 20:00:00 | 映画


 消えた名画を探し求めて、失われた記憶の中へ・・・。
 しかし、取り戻したはずの記憶は・・・?
 「スラムドッグ$ミリオネア」(2008年アカデミー賞8部門受賞)の、ダニー・ボイル監督によるアメリカ・イギリス合作映画だ。

 絵画強盗の犯罪ドラマかなと思って観ると、さにあらず、これが記憶を失った男の心理サスペンスへと、一気に変貌するのだ。
 そしてその先は、記憶と現実、過去と現在が目まぐるしく交錯し、間違いなく映画の迷宮へとはまり込んでしまうのだ。
 ダニー・ボイル監督の仕掛けは、二重三重となって人をだまし続ける。
 スリルとサスペンスに思わず時間を忘れる、秀逸な娯楽映画である。








ロンドンのオークション会場から、40億円の買値のついたゴヤの絵画「魔女たちの飛翔」が、あっという間に盗まれた。

名画を奪ったのは、ギャングたちと手を組んだ競売人のサイモン(ジェームズ・マカヴォイ)だった。
何故か、計画とは違う行動に出たサイモンは、ギャングのリーダー、フランク(ヴァンサン・カッセル)に殴られ、その衝撃で彼は記憶を失い、絵画の隠し場所がわからなくなってしまった。
実は、サイモンとフランクはグルだったのだが・・・。

フランクは、記憶を取り戻させようと、催眠療法士のエリザベス(ロザリオ・ドーソン)を使って、サイモンの記憶を探らせようとする。
だが、サイモンの記憶にはいくつものストーリーが存在し、深く探れば探るほど、関わる者たちを危険な領域へ引きずり込んでいくのだった。
そして・・・、サイモンでさえ予想もつかなかった、秘密と危険が彼を待ち受けていたのだった・・・。

敢えて違う国籍の俳優を選んだのか、主要登場人物3人のキャラクターが、不思議な三角関係を見事に色分けている。
絵画強盗、記憶喪失、催眠療法と、流麗でスピーディーなカメラワークと、観客を幻惑するような映像技術で、ダニー・ボイル監督はスタイリッシュな騙しあいでドラマをぐいぐい盛り上げる。
映像は華麗だし、派手だ。
物語の二転三転は序の口で、三転四転と、さらには一癖も二癖もある男たちと女の騙しあいが、観客をいやがうえにも迷宮へと誘い込んでいく。

重層的に加えられる、少しばかりややこしいひねりは、クライムミステリーのそれだし、主人公たち3人の欲望や秘密によって、彼らの関係性はめまぐるしく変わり、意外な真実へと行き着くことになるのだが・・・。
プロットも手の込んだ面白さだし、バイオレンスにエロスも加わり、美術と証明に工夫を凝らした映像も艶やかだ。
映画冒頭の部分、奪われた絵を入れたはずのバッグの中身は、額縁だけであった。
もうここから、物語は急展開していく。

アメリカ・イギリス合作映画「トランス」は、現実と記憶が混在する世界を描いて、その迷宮にはまり込んでしまい、不可思議で何ともスリリングな展開と予期せぬスピード感覚、そしてかつてないような結末へと一気にひた走るという、まさに映画に翻弄される醍醐味がここにある。
ドラマはやがて、サイモンとエリザベスとの意外な関係も明らかになり、様々な記憶の断片が現実と交錯し、どこまでが現実なのかわからなくなる。
終盤の展開には、あっと驚嘆させられる。
ここは、映像のマジックで酔わせる、新世紀監督ダニー・ボイルの果敢な挑戦に、拍手を送りたい。
実に面白い、一級の娯楽映画で上々のエンターテインメントだ。
     [JULIENの評価・・・★★★★☆](★五つが最高点