徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「駆ける少年」―躍動する幼い命の尊い輝き―

2013-02-04 16:00:01 | 映画


 この人も、大変な日本びいきである。
 イランアミール・ナデリ監督の、初期の傑作といわれる。
 「CUT」では、西島秀俊の肉体を極限にまで追いつめ、映画へのほとばしる愛を描いて見せてくれた。

 この作品には、ナデリ監督自身の体験が色濃く反映されている。
 ナデリが生まれる前に父が他界し、6歳の時に母も・・・。
 それからは叔母に引き取られ、、正式な教育は12歳まで受けていない。
 その頃から、ナデリ少年を支えたものは「映画」だったようだ。
 そして、少年ナデリは映画監督になる夢を追い求めて、いまに至っている。
 そうした経緯は、そのままこの映画の主人公である、少年アミルと重なるではないか。






     
1970年初頭、ペルシャ湾岸のイランの港町・・・。

11歳の少年アミル(マジッド・ニルマンド)は、浜辺に打ち捨てられた廃船で、家族もなくたった一人で暮らしていた。
アミルは、毎日海に浮かぶ空き瓶を拾い集めたり、波止場で氷水を売り、水平の靴磨きをしたりして、どうにか生計を立てていた。

それでも、アミルには好きなものが自分の周囲にいっぱいあって、淋しくなんかない。
海に浮かぶ大きな白い船、チャップリン、友だち、そして何よりも走ること・・・。
ある日、自分が学校へ行っていないので、飛行機の写真を切りぬくために、新聞を買っていた自分が文字を読めないことに気づく。
アミルは、自らひとり学校を訪れ、猛然と字を覚え始める。
この言葉への興味が、少年アミルの大きな人生の転機となった・・・。

少年は、大好きな船と飛行機を目にするたびに、両手を上げ、小躍りして歓ぶ。
少年は、何があっても元気だ。
それは、少年の歓喜の姿だ。
珍しいイラン映画で、アミール・ナデリ監督「駆ける少年」は、全篇にわたって、とにかく駆ける少年の姿を多彩に描いている。
観ていて、気持ちがいいほど元気が湧いてくる作品だ。
そんなシーンが多く、作品自体とてもシンプルだが、そのシンプルさがいい。

少年の心を想うと、しかし奥は深く、温かい。
天涯孤独でありながら、自らの足ですくっと立ち、遠くを見つめる真直ぐな眼差し・・・。
若く、たくましく、そこに、幼くても精いっぱいに生きる、命のほとばしるのを見る。
言葉なんか、不要だ。
それだけで絵になる作品だし、過大な期待はやめて、この作品を真直ぐ見つめるだけでいい。
    [JULIENの評価・・・★★★☆☆](★五つが最高点