徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「花のあと」―女、凛然として―

2010-03-16 14:00:00 | 映画

今年で没後13年、藤沢周平の同名小説を、中西健二監督が映画化した。
脚本は、「山桜」に続いて、長谷川康夫と飯田健三郎が担当した。
ひとりの女性が、剣をとって義を貫くという時代劇である。

藤沢作品に一貫する、心の美と義は、この作品でも健在だ。
満開の桜が、印象的な映像美を余韻とともに盛り上げる。
藤沢作品は、文章というより詩的要素の強い部分もあり、行間に漂う空気は、そのままここでも丁寧に描かれている。
一見さらりとしていて、ものすごく静かだが、激しさを秘めた映画だ。

時代は、江戸・・・。
藩の要職にある寺井家の一人娘の以登(北川景子)は、男にも劣らぬ剣の使い手だった。
以登は、藩内随一と噂の高い江口孫四郎(宮尾俊太郎)と竹刀を交え、恋に落ちる。
それは、以登にとって生涯ただ一度の、しかし叶うことのない恋であった。
以登には許婚がいて、孫四郎もまた上士の家の婿となる日が迫っていた。

自らのさだめを静かに受け入れ、思いを断ち切る以登であった。
・・・やがて、遠く江戸から届いたのは、孫四郎自害の報であった。
激しい動揺を抑え、以登は婚約者・片桐才助(甲本雅裕)の力を借り、その真相を探る。

二人は、孫四郎の死の陰に、藩の重鎮・藤井勘解由かげゆ・市川亀治郎の陰謀が潜んでいることを突き止めた。
孫四郎は、内藤家の加世(伊藤歩)に婿入りをしていたが、実は加世は婚前より勘解由と密通していたのだった。
その勘解由が、孫四郎を罠に陥れたことも分かった。
そして、以登は、あの日以来遠ざけていた剣を手に、立ち上がった・・・。

昔から日本人の持っていた、内面の美しさや情緒がにじむ画面だ。
主人公の、以登を演じる北川景子が実にいい。
彼女が、役作りのために、時代劇特有の所作と殺陣の稽古に半年間も費やしたというのだから、その苦労が知れる。
市川亀治郎を向こうにまわしての殺陣も、凛然として鮮やかだ。
この映画「花のあとのクライマックス、朝靄の漂う中で対峙する一対一の長い立ち回りは、二日間かけて撮られた緊迫の場面だが、原作では、短刀で一突きにするという、たった二行しか書かれていなかった。

いつも思うのだが、ヒロインをはじめ役者陣の、<目>に集中する演技がいい。
中西監督は、愁いも哀しみも、表情を感情に出さない演技へのこだわりが強い。
孫四郎役の、宮尾俊太郎はバレエダンサーで、今回異色の映画初出演となった。
そのせいか、演技が固い。
その孫四郎が、自害にいたる陰謀については、大事な部分なのだから、しっかり撮ってもらいたかったが、ドラマの中では簡単に語られているだけで、どうも不満が残る。
まあ、その分、美しく激しい北川景子の演技に救われたか。

ところで、彼女の次回作は6月19日公開の「瞬―またたき」で、これは岡田将生と共演のラブストーリーだそうだ。
実は彼女はかなりの読書家で、セクシー系よりは、一時は精神科医を目指したりもしたが、明治大学商学部出身という、れっきとしたインテリ系だ。
自身が学業優先、映画は二の次といい、それでいて、巷でうわさのスキャンダルとやらは大物女優並みの23歳、人気度もさすがというか、今後ますます注目度アップといわれるゆえんですか。

映画は、一編の詩を観ているようだ。
日本映画のよさだろうか。
作品の根底には、人間への深い愛が横たわっていて、女性の機微も細やかに描かれている。
藤沢周平の原作も手伝って、かなりの観客を動員しているが、映画は人気の方が先行しているきらいもある。