徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「誰がために」―知られざる真実―

2010-03-02 09:00:00 | 映画

これは、第二次大戦中にデンマークで実際にあった、対ドイツレジスタンスの物語だ。
デンマーク・チェコ・ドイツ合作気鋭のオーレ・クリスチャン・マセン監督作品だ。
過酷な運命に翻弄されながら、ナチスに凛然として立ち向かった、二人の男のドラマである。
65年の歳月を経て、いま明かされる哀切な実話だ。
真実のもつ説得力は、切なく胸に響くものがある。

第二次世界大戦下、デンマーク・コペンハーゲン・・・。
デンマークは40年にドイツに占領されたが、ナチスの弾圧は、日増しに激しさを増していた。
そんな中、打倒ナチスを掲げる地下組織<ホルガ・ダンスケ>に、23歳のベントこと通称フラメン(トゥーレ・リントハート)と、守るべき者のために戦うことを選んだ33歳のヨーンことシトロン(マッツ・ミケルセン)という、二人の男がいた。

フラメンは、純粋すぎるがゆえに使命感に燃える、堅固な反ファシズム主義者で、シトロンと組んで、ゲシュタポとナチに寝返った、売国奴の暗殺を任務としていた。
彼らは、人を殺すことには抵抗があり、苦悩の日々を送っていたが、組織の上層部から任命を命じられ、次々とターゲットを撃ち殺していく。

正義、友情、愛、そして裏切り・・・、取り巻くすべてに翻弄されながらも、信念を貫き、最期まで凛とした彼らの姿に、知られざる真実の物語を見る。
二人は、ある標的と対峙したときは、「何かがおかしい」とはじめての暗殺をためらってしまう。
さらに、フラメンの恋人であるケティ(スティーネ・スティンゲーゼ)に、二重スパイの容疑がかかり、暗殺命令が下ったことで、組織に対する疑念が急速に膨らんでゆく・・・。
このあたり、これが実話とは思えない、ドラマティックな展開だ。

絶望の底で、組織上層部に幻滅し、上からの命令をすべて拒否する二人であった。
組織を、そしてケティをも、本当に信ずることができるのか。
誰が敵で、誰が見方か。
疑心暗鬼に苛まれる中、フラメンとシトロンは、危険な立場に追い詰められていくことを感じ始めていた。
自分たちのしていることは、正義なのか?
何のために戦っているのか。

フラメンは、「戦争が終わったら、ここを抜け出して二人でストックフォルムへ行こう」と言うケティの言葉を、そしてシトロンは愛する妻、幼き娘と過ごした幸福な時を、ともに思うのだった。
・・・そして、自らの果てを悟った二人は、信念を貫き、おのれのすべてをかけて、デンマーク史上最大の、ゲシュタポの大量虐殺の首謀者・ホフマン(クリスチャン・ベルケル)の暗殺を決意するのだった・・・。

デンマーク王国公文書館が、当時の資料を公開せず、語ることも許されなかった、タブーとされる史実を、目撃証言にもとづいて映画化した。
デンマーク・アカデミー賞5部門受賞作「誰がためには、実在した二人のレジスタンスの生き様を、壮烈なスケールで描ききった感動作だ。
組織に対する不信、恋人への疑念、相棒との絆、正義感を裏切られた二人の男のやるせない、救いがたい苦悩を冷静に見つめながら、適度の叙情をしのばせることも忘れない。
映画は、自国デンマークに出現した、ナチ組織に対する真実の姿を、あくまでも冷静に綴っていく。

(・・・デンマーク解放後、フラメンとシトロンの葬儀が盛大に行われ、二人の棺は並べて埋葬されたといわれる。
1951年には、アメリカ政府からシトロンの母親に、彼の功績を称え、自由勲章が授与され、フラメンにも同じ栄誉が与えられたそうだ。)

他国のいかなる抵抗運動にも劣らない、大規模な破壊活動(抵抗運動)を展開していた二人が、祖国を、そして愛する者のために、刹那を生きる気高さを描いた秀作といえる。
そうか。
こんな歴史もあったのだ。
人は、個人の利害を超えて、信念を貫くことができるだろうか。
命を懸けても守りたいもの、それは何だろうか。
時は過ぎ行こうとも、歴史は、いつまでも語り続ける。
いつまでも・・・。