徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「パチャママの贈りもの」―素朴さとやさしさと―

2009-12-27 03:00:00 | 映画

雄大な自然と、先住民の家族の素朴でやさしい生活の物語だ。
何も知らずに観ていれば、記録映画と間違えそうだ。
松下俊文監督による、日本・ボリビア・アメリカ合作作品である。
しかも、南米ボリビアのアンデス高地は、標高3600メートルというから、富士山の高さに近い。
“パチャママ”とは、インカ帝国の末裔、アンデス先住民の言葉で、“母なる大地”のことだそうだ。

誇りをもって、自然と共生して日々を暮らし、家族や社会の一員たること、先祖からの知恵を大切にすること、すべての恵みを与えてくれる“パチャママ”へ感謝を捧げることを、この作品は印象づける。
地球上に暮らす人々は、誰もがみなそのような日々を営んできている。
映画「パチャママの贈りものは、現代の私たちが失いかけている大切な何かを教えてくれる・・・。

南米ボリビアの高地に、広大なウユニ塩湖がある。
面積12,000キロ平方メートル、四国の半分の大きさだ。
そこで塩を採掘して生活している、ケチュアの家族がいる。
家族の一員コンドリ(クリスチャン・ワイグァ)は13歳、学校に通い、友だちと遊び、父を手伝って堆積した塩を黙々と切り取っている。
貧しいながらも、心豊かな日々を送っている。

季節の移ろいとともに、そんな彼にも変化が訪れる。
大好きな祖母の死、友人の引越し、そして今年はじめてキャラバンの旅に出る。
リャマ(駱駝の一種)の背に塩の塊を積み、アンデスの山々を越えて塩の道を行く3ヶ月の旅・・・。
女友達のコーリー(ルイス・ママーニ)も、一緒に行くことになった。
同じ村に住む、コーリーのおばあさんから父が頼まれたからだ。

そうして、旅は続く。
鉱山での悲しい出来事、悪夢、雪山で大人へのはじめての反抗・・・、コンドリは初めての経験を重ねながら、旅の最終地マッチャの村に到着する。
人々にチチャ酒を売ったり、幸福を招くアルマジロ(小動物)が売りに出ている。
まあ、小さな市である。
父は、一年ぶりに会ったおじさんとコカを噛みながらチャンゴを弾いている。
町はにぎわい、いよいよインカの時代から続いている伝統のケンカ祭りがはじまる。
そこで、コンドリは、山里からやって来た美しい少女ウララ(ファニー・モスケス)と出会ったのだった・・・。

この作品は、3ヶ月の塩キャラバンを通じて、少年の成長を描く物語だ。
ボリビアで、6年の歳月をかけて撮影したといわれる。
出演者は、ボリビアで暮らすアンデス先住民で、ケチュアの人々だ。
彼らの、何にもまして屈託のない、ほんとうの笑顔と、アンデスの美しい映像(たとえば夕焼けに映えるアンデスの山並み)が、私たちの心に鬱積した、不安や疲労を洗い流してくれるようだ。
世界的な歌手ルスミラ・カルピオの、奇跡の歌声と現地のフォルクローレに乗って、アンデスの笑顔と風がやってくる。

現代の科学文明とは隔絶された感のある、アンデス高地の人々の生活を見るとき、その素朴さとやさしさに心癒される想いがする。
そして、この作品からふと想うこと・・・、13世紀末頃、現在のボリビアあたりのケチュアから、いまのペルーやボリビア中心に、広大な領土とあの高名な文明をもたらしたインカ帝国が興ったのだった・・・。