徒然草

つれづれなるままに、日々の見聞など、あれこれと書き綴って・・・。

映画「マイ・ブルーベリー・ナイツ」ー失くした恋の味ー

2008-03-25 20:00:00 | 映画

フランス・香港合作のこの作品は、「欲望の罠」「恋する惑星」「天使の涙」「ブエノスアイレス」などのヒットで知られる、ウォン・カーウァイ監督の、文字通り甘やかな映画である。
あまりというか、いやほとんど縁がないが、これが、極上のスイーツのようなラヴストーリーという触れ込みだ。

二人の間を隔てる距離・・・、それは見た目には僅かでも、時として彼らの心はひどく離れている。
「マイ・ブルーベリー・ナイツ」は、その男女の距離を、様々な角度から描いている。

ひとつの恋を忘れて、さらなる次の恋への一歩を踏み出すためには、どれほどの「距離」が必要なのだろうか。
ジェレミー(ジュード・ロウ)との、新しい恋に踏み出せないエリザベス(ノラ・ジョーンズ)は、新たな自分探しの旅に出る。
そして、旅先で出会った人々から、前に進んでいく勇気をもらうのだ。
失恋から始まる、この果てしない旅路は、彼女を何処へ導いて行こうとしているのだろうか。

ニューヨーク、夜・・・。
失恋したエリザベスを慰めてくれたのは、カフェのオーナー、ジェレミーの焼く甘酸っぱいブルーベリー・パイであった。
それでも、別れた彼をエリザベスは忘れられないでいた。
彼が新しい恋人といる部屋を見上げ、エリザベスは旅に出る。

失恋して57日目、ニューヨークから1120マイル、彼女はメンフィスに居た。
そこで、エリザベスは、別れた妻への未練を断ち切れず、アルコール中毒になった男とその元妻に出会った。

失恋して251日目、ニューヨークから5603マイル、人を信じないことを信念とする、若く美しい女ギャンブラーと会う。
そして、彼女と共にラスベガスへ・・・。

彼らの人生を、自分の人生と照らし合わせ、エリザベスは考える。
人を愛すること、信じることって、一体何なのだろう。
・・・そして、彼女は気づく。
真先にそれを伝えたい相手が、遠くニューヨークにいるジェレミーであった。
 「あなたの作ってくれた、ブルーベリー・パイは世界一美味しい」
エリザベスは、一度はその地を離れたニューヨークに戻りたいと思い始めた・・・。

誰からも愛されず、ケースの中で憂いを帯びた、甘酸っぱいブルーベリー・パイ、その味は身に沁みるほどに切なく、忘れられない恋の味であったとは粋な演出である。
実は、ヒロイン・エリザベスを演じた、ノラ・ジョーンズの一番嫌いなパイが、ブルーベリー・パイだったことがきっかけだそうだ。
いかにも、ウォン・カーウァイ監督らしいユーモアが感じられる。

映画の冒頭のシーンで・・・。
エリザベスは、別れた恋人の家の向かいにあるカフェで、ジェレミーから、1ホール丸々と売れ残ったブルーベリー・パイを差し出された。
恋の痛みを引きずるエリザベスは、自分の分身のようなブルーベリー・パイを求めてカフェに通い、ジェレミーと語り合ううちに、彼と親しくなっていき、いつしか二人の間にはいい雰囲気が流れ始める。
普通なら、この辺りから二人の駆け引きが面白くなっていくところなのだが・・・。
ここで、彼女はジェレミーに何も告げずに、突如姿を消して、旅に出てしまうのである。

旅というのは、人の心に新しい何かを目覚めさせてくれるようである。
誰もが、自分の過去を知らない場所で、時間と距離を経るごとに新しい「自分」が上書きされていくのだ。
そして、距離が離れるほどに、甘い予感は現実となって近づき、痛めた心のきざはしに、「女性」の新たな勇気が腰を下ろして・・・。
ウォン・カーウァイ監督は、そのような「時間=空間」を創作してきたのかも知れない。

失恋からの、素直な立ち直り方マニュアルとして読み解けば、この作品 http://blueberry-movie.com/は、なるほどとうなずける映画である。
2007年、カンヌ国際映画祭のオープニングを飾った話題作で、主演はグラミー賞8冠のノラ・ジョーンズで、世界の歌姫が待望の映画主演デビューとなった。
共演は、全員がアカデミー賞の受賞者と候補者で、ジュード・ロウ、ナタリー・ポートマン、デイヴィッド・ストラザーン、そしてレイチェル・ワイズということで、その華やかなコラボレーションを、十分に楽しめるかも知れない。