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カクレマショウ

やっぴBLOG

「ランド・オブ・プレンティ」─やはり癒しの旅

2007-03-19 | ■映画
「パリ、テキサス」のヴィム・ヴェンダース監督作品。タイトルの意味は「豊かな国」、「豊穣な土地」といったところでしょうか。ヴェンダースが、「豊かな国」米国のその「豊かさ」の陰に潜む根深いテーマに切り込みます。切り口は、「9.11」。

ラナ、という名前の20歳の女の子。「女の子」と言った方がしっくりくるような、純粋で穏やかな笑みを浮かべる少女。宣教師だった父のもとで10年間をアフリカやイスラエルで過ごしたラナがイスラエルから米国・ロサンゼルスに戻ってきます。空港で彼女を出迎えたのは、「命の糧」というホームレスの救済活動を行う伝道所を切り盛りする牧師ヘンリー。ラナもそこで働くことになります。

冒頭、そんなラナの姿と、一人の男の様子が交互にスケッチされていきます。その男とは、「9.11」をきっかけに友人のジミーとともに「母国警護隊」と称してアラブ人の監視活動に生涯を賭けるポール。やがて、この二人が伯父と姪の関係にあること、ラナが音信不通になっていた伯父を探し出そうとしていることが明らかになっていきます。

ポールはベトナム戦争の精神的な後遺症から未だに抜け切れていません。それを決定的にしたのが「9.11」であると彼自身が語る。タワーに2機の航空機が突入した映像を見て、忘れていたベトナムの悪夢が再び甦ったのだと。彼の「活動」は確かに常軌を逸しています。アラブ人と見ただけで彼は勝手に「テロリスト」の容疑をかけ、勝手につけ回し、勝手に容疑を固めていく。しかし、そんなポールを行動を頭から否定したり貶したりはできない気にさせられるのです。ベトナム戦争の狂気そして遺恨は、いろんな映画で描かれてきましたが、「9.11」との関連で再び登場するとは思ってもみませんでした。

ポールの身に降りかかる「悲劇」を覚悟しながら何となくびくびくしながら映画を見ていたのですが、一方で、ラナの何とも言えない表情に救われる。屋上で踊るラナ、配給の食事を配りながらアラブ人に「どこから来たの」と尋ねるラナ、殺されたアラブ人の身元を調べに警察を訪れるラナ。その裏表のないまっすぐな視線こそ、この映画の最も重要なファクターなのでした。

ヴェンダースといえばロードムービーの名手ですが、この映画でも後半、二人のちょっとしたロードムービーが展開されます。というより、この部分があってこその映画です。ロードムービーで描かれるのはその多くが癒しの旅。この映画では、ポールにとってのそれにほかなりません。荒野の孤独な町で、ラナの純粋な言動に触れ、ラナが母(つまりポールの妹)から預かった手紙を読み、病みきったポールの心はゆっくりと解きほぐされていく…。

戦争や政治に振り回されて心が歪む人間がいるとすれば、それを癒せるのは、その人を本気になって癒したいと考える人間しかない。地味ですが、そんなことを考えさせられるいい映画です。控えめな音楽もまたいい。

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