カクレマショウ

やっぴBLOG

「12モンキーズ」─現実への逃避は過去の記憶への旅

2008-01-17 | ■映画
TWELVE MONKEYS
1995年/米国/130分
監督 テリー・ギリアム
製作 チャールズ・ローヴェン
脚本 デヴィッド・ピープルズ ジャネット・ピープルズ
撮影 ロジャー・プラット
音楽 ポール・バックマスター
出演 ブルース・ウィリス/ジェームズ・コール マデリーン・ストー/キャスリン・ライリー ブラッド・ピット/ジェフリー・ゴインズ

未来世紀ブラジル」(1985年)のテリー・ギリアム監督の1996年の作品。管理社会的な近未来が登場するところは「ブラジル」と同じですが、こちらはタイムトラベルもの。「ギリアムの世界」としか言いようがない不思議な雰囲気に魅了されてしまいます。ただ、彼の最新作「ローズ・イン・タイドランド」なんかを見ると、いったいギリアムはどこに行こうとしているのか?と思ってしまいますけどね…。

ウィルスによって人類のほとんどが死滅してしまった2035年の地球。わずかに生き残った人々も、地下に住むことを強いられている。彼らは、時折囚人を使って「地上」の調査に赴かせる。そうした活動が認められ、また抜群の記憶力を持つという理由から、囚人の一人、ジェームズ・コール(ブルース・ウィリス)が、ある作戦の実行者として任命される。条件は「特赦」。その任務は、タイムマシンで過去に行って、ワクチンを作るために必要な純粋ウィルスの情報を得ることでした。

人類がウィルスに汚染され始めたのは1996年12月。コールはその直前に送られて、純粋ウィルスを手に入れる手はずになっていた。ところが、手違いでコールは1990年の世界に送られてしまう…。

いや~このへんでずいぶんアヤしいですよね。タイムマシンの性能が悪いのか、操作する未来人がヌケているのか…。行き先の時間を間違えたら何にもなりません。ともかく、1990年に飛んでしまったコールは、しかし、そこで思わぬ出会いを体験することになります。

ここで「12モンキーズ」について確認しておくと、この珍妙な名前は、ウィルスを撒き散らした犯人たちのこと。なぜ「12匹の猿」なのか。たぶん理由はない。ただ、「猿」でなければならないような気はします。人間に最も近い霊長類だから。

コールが1990年の世界で出会ったのは、精神病院の患者仲間であるジェフリー・ゴインズ(ブラッド・ピット)と精神科医のキャサリン・ライリー(マデリーン・ストウ)。ブラピが、超はじけた演技を見せてくれます。このクレイジーな男がいなければ、この映画は成り立ちません。「1996年に人類の99%が死滅する」、「起こってしまったことは変えられないが、"現在"生きている人間を救うためにやってきた」と言うコールを、ライリーは精神疾患とみなすしかない。ま、それは当然ですね。コールが言う"現代"とは、彼らにとっては遠い未来のことなのですから。コールは、電話を1本かけさせてくれ、そこにいる科学者と話せばすべてわかるとライリーに頼むが、かけた先には、コールが言うような科学者はいなかった。万策尽きたコールはゴインズの助けを借りて病院から脱走するも、再び捕らえられてしまい、手足を拘束されて監禁される。ところが、コールは煙のように姿を独房から忽然と姿を消す。

コールは未来に戻っていたのです。この、「戻る」メカニズムがよくわからなかった。コールが戻りたいと思えば戻れるものなのか、それとも、未来から強引に引き戻されてしまうのか。「送られる」時に使われる大々的な装置を考えると、いったいコールはどうやって未来世界に戻るのか、不思議な感じ。

それはともかく、戻ってきたコールは、当初の目的を果たせなかったことで、研究チームの科学者たちにさんざん罵倒されるのです。時代を間違ったのはそもそもアンタたちでしょう?と言いたくなるのですけどね。その科学者たちも、そもそもいかにも胡散臭い。「純粋ウィルス」探しだけではない、ウラに何かありそうな気さえしてきます。

で、コールは改めて1996年に送られる…ハズが、またもや手違いで、彼が真っ裸で出現したのはなんと第一次世界大戦のフランスの戦場。しかも、そこで脚に銃弾を浴びてしまう。結局、彼は1996年に再転送?されるのですが、この転送ミスが、あとで重要な意味を持つことになります。

1996年12月。記録によれば、12月26日にウィルスの最初の兆候が現れたという。ウィルスがばらまかれたのは、17日あたり。その直前にやってきたコールにとって、唯一の頼みの綱はキャサリン・ライリーでした。ところが、まともに彼女の前に姿を現しても信じてもらえないと思ったのか、コールは、彼女を車ごと誘拐するという強硬手段に訴える。なにしろ、キャサリンにとっては、コールが姿を消してから6年たってるわけですが、コールにとってはたった数日後のことなのです。しかも、残された時間は少ない。17日までになんとしても「12モンキーズ」を探し出さなければならない。焦る気持ちもよくわかる。

二人は、フィラデルフィアの街で、壁に書かれた落書きを手がかりに、ついに12モンキーズのアジトを見つける。そこにいた動物愛護団体を名乗る若者たちの口から、コールは意外な人物の名を聞くことになります。ジェフリー・ゴインズ。精神病院で彼の脱走を助けてくれた男。しかも彼の父はノーベル賞も受賞している著名な細菌学者です。ゴインズこそ、モン「キー」を握る男ではないか…。かつて、動物実験が虐待にあたるとして父を非難していたゴインズは、今や考えを変え、父のもとにいるらしい。コールはさっそくゴインズを訪ねる。

ところが、ゴインズは、思いがけないことをコールに告げるのです。6年前、精神病院で、コールが語ったウィルスによる人類絶滅という戯言をヒントに計画を思いついたのだと。はちゃー(>_<)。ウィルス散布のそもそもの原因は自分にあったのか! これはしかし、タイム・パラドックスですね。未来の人間は過去を変えてはいけないのです。未来からやってきたコールが「原因」になることはあり得ないはずですから。

コールにとっては、それはしかし大きなショックでした。キャサリンの誘拐犯として警察に捕まる寸前、またもやコールはいきなり「消滅」するのですが、未来に戻ったコールは、もはや「現実」と「妄想」の区別がつかなくなってしまっています。科学者たちはコールがついに12モンキーズのアジトを見つけたことを褒め称えますが、彼らさえコールにとっては「妄想」としか見えない。その兆候は、もっと前からありました。彼に時折話しかけてくる謎の声。なぜか「ボブ」と話しかけてくるその声は、コール自身の「記憶」の中の声なのかもしれません。頻繁にフラッシュバックされる、少年時代に空港で見た光景。誰かが撃たれ、美しい女性が撃たれた男に駆け寄るシーン。あの声は、「そこ」から聞こえてくるような気がします。

「青い空と海」のある場所が自分の居場所じゃないのか。そして、傍らにいてほしいのはキャサリンなのではないか。「声」に導かれるように、コールは再び1996年12月に戻る。「井戸に落ちた少年」のニュースの件、そして、コールの脚から摘出した弾丸が1920年以前のものだった、という事実から、キャサリンはコールを信じるようになっていました。彼女は公衆電話から1990年にコールがかけた「科学者」のものだという電話番号を回してみる。そこは、今は保険会社になっていました。キャサリンが残したという留守番電話の内容を聞いて、コールは、そのセリフを聞いたことがあることに気がつく。12モンキーズの手がかりとして、2035年の世界まで記録されていた留守番電話です。あれは君が残したものだったのか…。でも、キャサリンがその電話番号を知っているということは、過去にコールに会っていたということになります。12モンキーズのアジトの前の壁に書かれていた「ここから50億人が死ぬ」というペンキの落書きも、実はキャサリンが書いたものだということがわかる。ますます混乱するコール。でも、彼は、もう未来に戻るつもりはない。キャサリンと一緒に「青い空」の広がるところに行きたいだけ。

その頃、ゴインズたち「12モンキーズ」一味は、「計画」を実行に移していました。それはなんと…!このへんの意外性も、凝ってるよなあとつくづく思います。

さて、ラストの空港でのシーン。これまで、コールの「記憶」として何度も見せられてきたシーンの、本当の意味が明かされます。空港を出て「青い空」を見上げるジェームズ・コール少年の目はどこまでも澄んでいるのでした…。

それにしても、見るたびに新しい謎が出てきたり、新たな発見があったり。タイム・トラベルものだから、といえばそうなのですが、それでも、テリー・ギリアムらしい、よく練られた映画だと思います。こういう映画が私は好きなんだ!と改めて実感する映画です。どこかで聞いたようなテーマ音楽も、しばらく頭から離れません。そして、ブルース・ウィルス。「ダイ・ハード」もいいけれど、こういう役どころの方がむしろ生きているような気がしますね。

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