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カクレマショウ

やっぴBLOG

「幸せ」って何だっけ?(その2)

2009-10-19 | ■社会/政治
前回も書いたように、香山リカ『しがみつかない生き方─「ふつうの幸せ」を手に入れる10のルール』の白眉は、最終章の「<勝間和代>を目指さない」に尽きます。

<勝間和代>流の「成功」への方程式の根底には、「がんばれば、努力さえすれば、必ず成功する」という考え方があります。

それに対し、精神科医の香山リカは、数多くの臨床経験から、「努力をしたくても、そもそもそうできない状況の人がいる。あるいは努力をしても、すべての人が思った通りの結果にたどり着くわけではない」と言う。そして、<勝間和代>は、「弱い立場にある人、失敗しかけている人、競争に参加できない、あるいは脱落した人たちの存在」をどう考えているのか、明らかにしていないと批判的に述べる。

私は<勝間和代>の本を読んだことがないので、彼女が言うところの「努力、競争、成功」とか、「三毒=妬む、怒る、愚痴る」という考え方がどういうものなのかちゃんと理解はしていません。この本を読んで、そうなのか、と知るところが多いくらいで。たとえば、勝間氏の、「断る力」が大切、という論理に対して、香山氏は「断る以前に依頼が来ない人のほうが多い」として、人々が本当に必要としているのは、「静かに孤独や絶望に「耐える力」」のほうではないかと反論しているのを読んで、ほー、勝間和代はそんなこと言ってるのかと思ったり。

今週の「Aera」(2009年10月12日号)では、なんとこの二人を対談させています。がっぷり四つの勝間vs香山。『「ふつうの幸せ」に答えはあるのか』と題されたこの対談、たった6ページで終わらせるにはもったいないほど面白い。一方通行にお互いの主張を並べるだけでなしに、議論がちゃんと噛み合っているのが、さすがこの二人、と思いました。もっとも、非常にスリリングな噛み合い方ではありますが。(それにしてもこの対談、いったいどういう雰囲気で行われたのか?さぞかしピリピリした空気が漂っていたのではないかと…)

対談は、いきなりこんな話から始まります。

勝間 香山さん、家事は好きですか?
香山 好きじゃないです、全然。
勝間 私、好きなんです。洗濯物がパリッとなったり、お皿がピカピカになったりするプロセスが大好き。自分の行動で物変化するって、楽しくないですか。だから私、ご飯を食べて、「ああ、おいしい」と思うだけで毎日が幸せです。(後略)
香山 ご飯で幸せになれるんだったら、別に仕事で成功したり、資産を増やしたりしなくてもいいんじゃないですか。
勝間 おいしいご飯のためには、そこそこの経済力とスキルが必要です。いいレストランが判断でき、素材を吟味できたほうがいい。使いやすいお玉や粉ふるいを選んだり、レシピを5分短縮したりすれば、子どもと遊ぶ時間も捻出できます。
香山 私は、そんな血のにじむような努力をしなくてもコンビニ弁当で十分幸せです。カツマーと呼ばれる人たちは、勝間さんがご飯のためにこれだけ努力していると聞いたら、「このままではダメなんじゃないか」と思うのではないでしょうか。


面白いですねー。いきなりのこのバトル。

対談中、二人の意見が一致するのは、勝間氏の本を読んで「愚直にまねる」(勝間氏)人が多いのでは、という点。香山氏は、勝間氏のやり方をそのまま真似して「頑張った果てにどうなりたいのかが不明確だから、頑張って何かを手に入れても満足が得られない」と言います。

次に来るのが、成功プロセス論。勝間氏は、「自分はどうすれば満足かを探す「プロセス」を楽しめばいいのに、どうしてゴールばかりを見てしまうのでしょうか」と述べる。何かを目指すとき、「刻み」の段階で満足してもいいと、自身の水泳体験を例に出して主張しています。これに対しても、香山氏は極めて懐疑的であり、たいていの人(何も持っていない人)が求めているのは、「「私が求めていたのはこれだったんだわ!」といったエクスタシーに似た恍惚の満足感」ではないかと言います。そんなものはない、という勝間氏に同調しつつも、香山氏は、「心からの恍惚はありえないことを、勝間さんのように成功した人から伝えることも必要ではないでしょうか」と進言する。このあたりは香山氏優勢か?!

さらに香山氏はたたみかける。幸せになるために努力することは簡単、むしろ「空費や浪費と呼ぶ時間を制限したほうが、ささやかな幸せが手に入りやすいのは確か」という勝間氏に対して、香山氏は、自分自身を引き合いに出す得意の戦法を展開。

香山 空費70%の私のような人間はどう思います?
勝間 空費の時間を楽しめるならいいですよ。でも、時間を空費しておいて、うまくいかないと悩むのはよくないと思います。
香山 私はやはり、挫折した人に「インディペンデントで頑張りなさい」とはとても言えない。でも、弱い人たちも生きていける社会にしていかなきゃいけないとも思っています。
勝間 社会構造的な問題意識は同じです。私の目標は格差をなくすことなので、私の本で格差が生まれているのであれば、目的に逆行してしまっています。


えっ、勝間氏は「格差をなくすこと」を目指していたのか。それは、ずいぶん高いレベルでの均等ということになるのでしょうね。勝間氏が、自分の書いた本を読めばみんなが成功してハイレベル(=幸せ)になれると思っているのであれば、それはちょっと違うだろうと思いますけど。

人間には本来、「自分をもっと良くしたい」、「現状を変えたい」という「上昇志向」があると思っていますが、だからといって、すべての人間が「上昇」できるわけではないことも事実です。「上昇」したところに必ず「幸せ」がある、とはもちろん言えませんが、そっちに「幸せ」があると信じている人が「努力」して、他と「競争」して、「成功」を収めることは決して悪いことではない。勝間氏は、「誰でも得意なことは見つかる」し、「自己研鑽をして少しでも他者の役に立てる人物になること」が結果的に自分の幸せにつながると言います。ヒューマニズムや利他的行動に懐疑的な香山氏は、これにも異議を唱え、二人の対談は、最後には教育、政治の役割に収斂していきます。

対談を受けての記事「カツマーとカヤマー 新・幸福論」にも書いてありましたが、この二人は、結局、「幸せ」=勝ち組という図式の中でしか考えていないのではないか。「勝った人にとっては勝間本が、負けた人にとっては香山本がサプリメントになっているだけに見える」(宇野常寛氏)。競争社会の中で生き残ることが勝ち組(=「幸せ」)というのは、今の世の中を支配する風潮なのかもしれませんが、そうでない構図の中で考えてみることも必要なのではと、思いました。「幸せ」に勝ちも負けもなく、ただあるのは「自分」だけ。たとえどんなに愛する人が死んだとしても、「自分」は残る。だから、「Aera」の最後の1行に私は深く共感を覚えました。

でも、気づくしかない。目指すべき<>に入れる名前は、自分でしかないことに。

「<勝間和代>を目指さない」なんて言われる前に、「<(自分の名前)>を目指す!」と堂々と言える人こそ、「幸せ」なのでしょうね。

しかしなー。吉本隆明が言うように、幸福とか幸せって、本来、「考える」ものじゃなくて、人それぞれが「感じる」ものなのでしょうね。「カツマーvsカヤマー」の対決?を見たあとで、吉本隆明を読み返してみると、ふっと肩の力が抜ける、そんな気がしました。

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6 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (dream)
2009-10-24 00:51:48
 読みたい記事があって「カクレマショウ」を見たら、再開されていてうれしく思いました!
 
 『「幸せ」って何だっけ?』を興味深く読みました。勝間氏VS香山氏の対談はこわそうで、ちょっとパスしたい、という感じですが、吉本隆明氏の『幸福論』は読んでみたくなりました。

 『続・カクレマショウ』を楽しみにしております。
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ありがとうございます。 (やっぴ)
2009-10-25 02:33:18
dreamさん

暖かいコメント、ありがとうございました。

相変わらず一人よがりのブログではありますが、改めてよろしくお願いしますね。
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Unknown (ヒッキー☆寸禅)
2009-10-25 04:02:58
気になるエントリーでしたので
コメントさせていただきます。

勝間さんにとっては「三毒=妬む、怒る、愚痴る」というのは初耳でした。

三毒は仏教用語で
貧欲・・・無限に欲する
瞋・・・感情に任せて怒る
痴・・・真理に無知で本能のままに行動する

だったので、勝間氏の主張と真逆になるはずなのですがw
どっから仕入れたのか気になりますね。

社会的地位、資産を欲し続け、三毒の定義を歪曲し、あるいは無知に利用するのは三毒から抜け出せていない証拠なのでは…と思います。

ただ、勝間氏の言いたいことも何となくわかります。
「もっとみんな真剣に生きろ」と言いたいのではないでしょうか。
真剣に生きていれば、それが成功でも失敗でも、死ぬときに「私は真剣に生きた」と満足して死ねる=幸せ
なのではないでしょうか。
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真剣に生きる (やっぴ)
2009-10-27 00:19:20
ヒッキー☆寸禅さん

はじめまして。
「三毒」の本来の意味をご紹介くださってありがとうございました。勝間流の「三毒」ということなのかもしれませんが、本来の意味を知っておくことがいかに大切か、とても勉強になりました。

勝間さんの本を読んでいないので、よくわかりませんが、「真剣に生きろ」という主張は、なんとなく感じます。「真剣」のあり方は人それぞれですが、自分なりに「真剣」であるかどうか、あるいは「真剣」だったかどうか、ということをもっと大切にしなさいということですね。

カヤマーには、そんなこと言ったって「真剣」になりたくてもなれない人がいる、と言われそうですが…。
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再開されてうれしい (naochan)
2009-10-27 18:59:58
何となく開いてみたら、再開されているではありませんか!!

とてもうれしいです。これからも時々お訪ねします。

勝間本は、以前コンビニでうっかり買って読んだことがあります。非常にまともなことをまともに教えてくれるのですが、実行するのは勝間さん以外にはムリなのでは、と思いました。
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ありがとうございます。 (やっぴ)
2009-10-30 00:12:02
naochanさん

うれしいお言葉ありがとうございます。

それにしても、勝間本を「うっかり」買ってしまったというくだりには思わず笑ってしまいました! ほんと、ついふらふらと手を出してしまいそうな本ばっかり並んでますよね。

「実行するのは勝間さん以外にはムリ」。

そうです、極言すれば、きっとそういうことなのですよね。

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