カクレマショウ

やっぴBLOG

みうらじゅん『アイデン&ティティ24歳/27歳』─ロック魂はわからないけど、泣ける。

2009-05-31 | ■本
みうらじゅん自身を反映している主人公「中島」は、大学時代に結成したロックバンド「SPEED WAY」のボーカルを担当しています。折からのバンドブームに乗って、SPEED WAYはまずはインディーズで人気を博し、ヒット曲も出て「メジャー」となっていく。テレビにも出るようになる。言い寄る女の子も引きも切らない。言われるままに地方にもキャンペーンに出かける。

しかし、人気が出れば出るほど、中島の心は冷めていく。これが自分が本当にやりたかった「ロック」だろうか? いや。こんなのはロックなんかじゃない。ほかのバンドを見たって、日本には本当のロックバンドなんていやしない。自分が本当に歌いたいこと、伝えたいことはいったい何なのか…? やりきれない思いが中島を駆り立てる。「業界」のプロデューサーとの衝突、バンド仲間との仲違い。そして、「時代は変わる」。バンドブームも過ぎ去ろうとしていた。同時期にデビューした岩本は、生き残るためには「戦略と行動力」が必要だと言い放ち、テレビタレントとして活躍している。中島は、SPEED WAYは、どの方向を目指して進めばいいのか…。

私には「ロック」が何なのか、皆目わかりませんが、でも、自分が実際にやっていることと、自分がやりたいことの乖離という意味では、中島の気持ちはすごくよくわかる。でも、本当に「自分がやりたいこと」っていったい何なのか。それさえわからなかったりもする。「起きていることは全部正しい」としたら、本当にやりたいことは、自分が今やっていることの先にしか存在しないのではないのか。

悩める中島の前に、「ロックの神様」ボブ・ディランが忽然と現れます。彼は、ギターを抱え、ブルースハープを口にして、折に触れて中島の心に話しかけてくるのです。おまえが一番やりたいことって、たとえばこんなことじゃないのかい? 

 息の仕方を知ってるなんて奇跡だぜ ♪ "Idiot Wind"

 分からないことは批評するな 昔のやり方は急速に消えつつある
 新しいことをじゃましないでほしい
 とにかく 時代はかわりつつあるんだから ♪ "The Times They Are A-changin'"

 ひとは自分の属さないところへ行ってはいけない
 道の向こうの家を天国と間違えるな ♪ "One Too Many Mornings"

中島がディランの「導き」でたどり着いたのは、"IDENTITY"。

 アイデンティティのない学校で
 アイデンティティのない友達と
 アイデンティティのない戦争をして
 アイデンティティのない世に送られる

誰もが持ってそうで持っていないティティ!

そして、ディランは中島の元を去っていく。「君が必要としているものは もっと他のものだ。君はもうそれを見つけているはずだよ」という言葉を残して。

さて、中島にとって、もう一つの心のよりどころは、大学時代からつきあっている「彼女」。この「彼女」がいい。すごくいい。「彼女」は、中島の悩みや苦しみ、いい加減さすべてを引っくるめて受け止めてくれる。中島が「彼女」に対して、「君の言ってることは理想過ぎるんだ」と弱音を吐くと、「君の仕事はその理想を追うことなのよ」なんてさらりと言ってのける。

 愛しかない それが世界を動かしている
 愛そして愛だけだ それは否定できない 
 君がどう考えようが それなしでは何もできない
 それなしで生きようとしてみた奴から学ぶといい ♪     
              "I Threw It All Away"

 Love is all there is, it makes the world go 'round,
 Love and only love, it can't be denied.
 No matter what you think about it
 You just won't be able to do without it.
 Take a tip from one who's tried.

このコミックを読むと、改めてボブ・ディランの言葉の奥深さを感じます。同じことを言っても、ディランが言うと、どうしてこんなにも違うのだろう?…

角川文庫版には、続編とも言うべき「マリッジ」も収められています。こちらは、ディランに変わってジョン・レノン&オノ・ヨーコが登場。「愛」をテーマに、SPEED WAYのその後、「彼女」とのその後が描かれています。

それから、この物語を原作とした映画「アイデン&ティティ」(監督:田口トモロヲ、脚本:宮藤官九郎)については、改めて紹介したいと思います。

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