goo blog サービス終了のお知らせ 

カクレマショウ

やっぴBLOG

手塚治虫『ブッダ』覚書 《その2》 「第1巻 カピラヴァストゥ」(2)

2009-04-07 | └手塚治虫 『火の鳥』・『ブッダ』・『MW』
第1巻の後半(第5章~)は、チャプラが主人公です。

チャプラは、シュードラ(奴隷階級)の出身でありながら、コーサラ国のブダイ将軍の命を助けたことから、彼の養子に迎えられます。シュードラであることは、ブダイ将軍には内緒にしていましたが、ある時、道端でシュードラの子どもをチャプラが助けるのを見て、ブダイはチャプラもシュードラであることに気づいてしまいます。そして、決してそのことを秘密にするようチャプラに告げる。

チャプラの夢は、かあさんと幸せに暮らすことで、そのために彼は、弓や剣を覚えるのに涙ぐましい努力を重ねます。チャンピオンマッチを勝ち抜き、名実共に「天下一の弓の名手」となったチャプラのもとに、バンダカという一匹狼が弓の勝負を挑んでくる。

『ブッダ』にはもちろん「ヒール」も何人か登場してきて、ブッダを苦しめたりするのですが、最初に登場する「悪い人」がこのバンダカ。登場の仕方がいかにも象徴的です。行方知れずになったチャプラを探して、母とタッタ、ナラダッタは荒野をさまよい、飢えに苦しめられている。そこに現れた1匹の大蛇。とぐろの真ん中に卵を抱いているではないか。その卵をもらうために、タッタは自分が犠牲になろうという。自らを大蛇に食わせて、その代償として卵を二人がもらえばいいと…。ナラダッタはそこでもタッタこそやはり探し求めていた人物だと確信するのですが、哀れタッタは大蛇に呑み込まれていく。

そこに馬に乗って突然現れたバンダカは、迷うことなく大蛇を矢で仕留め、その腹を切り裂いてタッタを救い出す。さっきからおまえたちはいったい何を悩んでいるんだと、輪切りにした蛇の肉を放り投げてくる。バンダカにとっては、自分が生き延びるために「他の生」を殺して食べるのはごく当たり前のことなのです。

そう考えると、バンダカもあながち「ヒール」とは言えないのではないかと思えてきます。バンダカのような生き方は、程度の差こそあれ、ほとんどの人間のそれと重なります。自分が一番大切で、場合によっては他を犠牲にすることさえいとわない。タッタのような自己犠牲の精神を持つ人間なんてほとんどいないわけです、現実には。

ブッダは、しかし、そういう生き方こそ大切だと人々に説いていきます。バンダカは否定される。多くの人々にとっても、それは自分のそれまでの生き方を否定されるものだったはずで、容易にはブッダの教えに傾倒はできなかったのではないのかと思います。なのになぜ受け入れられていったのか、そのあたりがこの物語の大きな軸として描かれていきます。

ブッダとなるゴータマ・シッダールタは、第1巻第7章で、静かに厳かに、この世に生を受けます。待ち望まれたシャカ国の王子として。今から約2,500年ほど前のことです。明日、4月8日はブッダの誕生日(旧暦の4月8日ですが)として「灌仏会(かんぶつえ)」と呼ばれ、その生誕を祝う花祭りが各地で行われます。

さて、成長し、悟りを開いたブッダの教えを聞くことなく、チャプラと母は、この巻の最後に、非業の死を遂げます。それもまた現実世界の無情。「かあさんと幸せに生きる」というチャプラの夢は、「来世」に持ち越しになっていく…。
(続く)

『ブッダ』≫Amazon.co.jp


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。