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「情婦」─すぐれた法廷劇とマレーネ・ディートリッヒ

2010-08-23 | ■映画
“WITNESS FOR THE PROSECUTION”
1957年/米国/117分
【監督】 ビリー・ワイルダー
【製作】 アーサー・ホーンブロウ・Jr
【原作】 アガサ・クリスティ
【脚本】 ビリー・ワイルダー ハリー・カーニッツ
【出演】 タイロン・パワー/レナード・ヴォール  マレーネ・ディートリッヒ/クリスチーネ  チャールズ・ロートン/ロバーツ・ウィルフリッド卿  エルザ・ランチェスター/看護婦ミス・プリムソル

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「情婦」という邦題には勘違いさせられた人も多いらしいですが、原題“WITNESS FOR THE PROSECUTION”とは、「検察側の証人」という意味。アガサ・クリスティが自身の短編小説を下敷きに著した戯曲のタイトルです。

今から20年前、1991年発行の『大アンケートによるミステリー・サスペンス洋画ベスト150』(文春文庫)では、堂々の第7位にランクされている、第一級の法廷劇です。ちなみに、この本のベスト10は次のとおりです。

第1位 「第三の男」(1949年)
第2位 「恐怖の報酬」(1952年)
第3位 「太陽がいっぱい」(1960年)
第4位 「裏窓」(1954年)
第5位 「死刑台のエレベーター」(1957年)
第6位 「サイコ」(1960年)
第7位 「情婦」(1957年)
第8位 「十二人の怒れる男」(1957年)
第9位 「鳥」(1963年)
第10位 「悪魔のような女」(1954年)

いやー、見事に1950年代、60年代の映画ばっかりですな~。確かに名作ばっかり並んでいますが、こういう映画も、今や、ほとんどワンコインでDVDが手に入ったりします。時代の流れですね。ついでに、ミステリー・サスペンス映画の監督ベスト1は、もちろんアルフレッド・ヒッチコックとなっています。なんたって、ベスト10に3作(「裏窓」、「サイコ」、「鳥」)も入ってますからね!

さて、この映画、最後に「この映画の結末は、まだ見ていない人に話さないでください」というメッセージが出るのですが、このパターン、今ではミステリー系の映画のお決まりのパターンですが、これって、この映画が最初なのでないでしょうか。さらに、二重のどんでん返しという仕掛けも、この映画が初めてかも。

金持ちの未亡人の殺人容疑をかけられたレナード(タイロン・パワー)は、人づてにロバーツ・ウィルフリッド卿(チャールズ・ロートン)に弁護を依頼する。ロバーツは、ロンドンきっての敏腕弁護士であるに違いないのですが、もはや老齢でしかも心臓に爆弾を抱える身。

ロバーツを演ずるチャールズ・ロートン。私にとっては、「スパルタカス」で、奴隷商人を演じていたのが強い印象に残っているのですが、彼はつくづく、「英国俳優」を地でいっている人だと思います。ウィットに富んだ会話といい、頑固さといい、役柄とはいえ、この役はやはり彼にしか演じられませんね。彼が手にする「小道具」も、それ自体様々なウィットを含んでいます。医者に禁じられているはずの葉巻、相手の真意を見抜く片眼鏡、ココアが入っているはずの魔法瓶、法廷でテーブルの上に並べられる錠剤、巨大なバミューダ・パンツ(と、その注文書)…。小道具は単なる小道具ではなく、それぞれにちゃんと意味を持っている。ビリー・ワイルダー監督の「懲り様」が察せられますなァ。

彼の専属看護婦として、口うるさくロバーツに指示を出す看護婦のミス・プリムソル(エルザ・ランチェスター)もいい味出してます。なんだかんだ言っても、彼女が一番ロバーツを理解しているんだなあということが、ラストシーンを待つまでもなく分かる。子どもにはなかなかその機微を汲み取れない、大人同士の関係ってやつですね。



さて、「情婦」を演じるのはマレーネ・ディートリッヒでありまして。この映画に出たときは56歳!だそうです。この人、決して美しい顔立ちをしているわけではありません。ただし、「退廃的な美女」とは言えるかも。ワイマール共和国時代のドイツの舞台女優として活躍していたところを米国の映画監督ジョセフ・フォン・スタンバーグに見出され、「嘆きの天使」で映画デビュー。「モロッコ」(1930年)でゲイリー・クーパーと共演して一躍ハリウッドの人気女優になる。祖国ドイツでは、ヒトラー率いるナチスが政権を握っていましたが、ヒトラーもマレーネが大のお気に入りだったそう。でも、ナチスを嫌ったマレーネは、再三にわたる里帰りの招きを断り、第二次世界大戦中は、ヨーロッパ戦線で米軍兵士の慰問活動をしていたのだとか。一番拍手が多かったのは、彼女自身の愛称でもある「リリー・マルレーン」という反戦歌。「歌姫」マレーネ・ディートリッヒ。この映画でも、まさに彼女自身の体験を再現するかのように、ベルリンの安酒場でアコーディオンを抱えて歌うディートリッヒが登場します。脚線美もちょっと披露したりして。




この映画で、マレーネは、「元女優」として、極めて重要な役回りを演じます。法廷で証人台に立ったマレーネが、ロバーツに偽証を暴かれた時に絶叫する” Damn you !! ”が耳に残ります。淑女にあるまじき罵りの言葉。でも、彼女が叫ぶと、迫力あるんです。おそらく、ヒトラーにも” Damn you !! ”だったのでしょうね。

原作のアガサ・クリスティーも、自身の作品の映画化の中では、一番お気に入りだったと言います。今や映画も3Dの時代ですが、たまにこういう、丁寧に作られたモノクロ映画を見るのもまた楽しい。

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