
スーザン・ケイの『ファントム』はおととい記したように、『オペラ座の怪人』の主人公エリックの生涯を描いた小説です。上下2巻の大作です。
上巻では、エリックの悲劇にいろどられた出生のシーンから始まります。1831年、フランスの片田舎ボッシュヴィルに住むマドレーヌは一人の男の子を産みます。彼の父親は、マスター・メイソンと呼ばれた将来を嘱望される建築家でしたが、落石事故にあって死んでしまいます。その時、マドレーヌのお腹には既にエリックが宿っていました。夫の面影をしのばせてくれる男の子を熱望していたマドレーヌでしたが、生まれてきた子は、とても人間とは思えない顔をしていました。彼が生まれて初めて身につけたものは、母親が作ってくれた「仮面」でした。
マドレーヌは、どうしても我が子を愛することができません。隣に住む幼なじみのマリーと教会のマンサール神父以外には、エリックの存在をひた隠しにします。幼いエリックが心を許せるのは、犬のサシャだけ。彼が生後6ヶ月で初めてしゃべった言葉、それは「サシャ」という言葉でした。
成長するにつれて、彼の音楽や建築に関する才能が花開いていきます。神父も驚くべきその才能に気づきますが、それでもその才能を知らしめるべく、彼の顔を世間にさらけ出すことは躊躇せざるを得ませんでした。
5歳の誕生日。マリーもお祝いにかけつけてくれます。恐る恐る母にプレゼントをねだるエリック。それは「キスしてほしい」というものでした。彼は一度も母にキスをしてもらったことがなかったのです。しかしマドレーヌは、泣きながらそれを拒絶します。彼は、マリーの前で仮面をとる。それを自分を卑しめ、罰するための復讐だと思ったマドレーヌは、怒りに我を忘れ、彼を鏡の前に立たせるのです。
「自分の顔を見てご覧なさい! 鏡に映った自分の顔を見れば、なぜお面をかぶらなきゃいけないか分かるでしょ。さあ、見てご覧!」
エリックは、5歳にして、生涯忘れることのない精神的な傷を追うことになるのです。
エリックが母と暮らしたのは、9歳まででした。カタチの上では、母が子どもを捨てたわけではありません。母がエリックを捨て、新しい恋に走ろうとしていることを知って、エリック自身が家を出るのです。それは、彼の長い放浪人生の始まりでした。
子どもを愛することができない母親の葛藤。エリックの場合は、そのあまりにも醜い容姿が原因でしたが、マドレーヌは、それだけではない「愛せない何か」を感じていたのだと思います。今社会問題となっている虐待の問題も、母親のそんな心理を解き明かしていくことに解決の糸口があるのかもしれません。
『ファントム』、もう少し続けます。
『ファントム』>>Amazon.co.jp
上巻では、エリックの悲劇にいろどられた出生のシーンから始まります。1831年、フランスの片田舎ボッシュヴィルに住むマドレーヌは一人の男の子を産みます。彼の父親は、マスター・メイソンと呼ばれた将来を嘱望される建築家でしたが、落石事故にあって死んでしまいます。その時、マドレーヌのお腹には既にエリックが宿っていました。夫の面影をしのばせてくれる男の子を熱望していたマドレーヌでしたが、生まれてきた子は、とても人間とは思えない顔をしていました。彼が生まれて初めて身につけたものは、母親が作ってくれた「仮面」でした。
マドレーヌは、どうしても我が子を愛することができません。隣に住む幼なじみのマリーと教会のマンサール神父以外には、エリックの存在をひた隠しにします。幼いエリックが心を許せるのは、犬のサシャだけ。彼が生後6ヶ月で初めてしゃべった言葉、それは「サシャ」という言葉でした。
成長するにつれて、彼の音楽や建築に関する才能が花開いていきます。神父も驚くべきその才能に気づきますが、それでもその才能を知らしめるべく、彼の顔を世間にさらけ出すことは躊躇せざるを得ませんでした。
5歳の誕生日。マリーもお祝いにかけつけてくれます。恐る恐る母にプレゼントをねだるエリック。それは「キスしてほしい」というものでした。彼は一度も母にキスをしてもらったことがなかったのです。しかしマドレーヌは、泣きながらそれを拒絶します。彼は、マリーの前で仮面をとる。それを自分を卑しめ、罰するための復讐だと思ったマドレーヌは、怒りに我を忘れ、彼を鏡の前に立たせるのです。
「自分の顔を見てご覧なさい! 鏡に映った自分の顔を見れば、なぜお面をかぶらなきゃいけないか分かるでしょ。さあ、見てご覧!」
エリックは、5歳にして、生涯忘れることのない精神的な傷を追うことになるのです。
エリックが母と暮らしたのは、9歳まででした。カタチの上では、母が子どもを捨てたわけではありません。母がエリックを捨て、新しい恋に走ろうとしていることを知って、エリック自身が家を出るのです。それは、彼の長い放浪人生の始まりでした。
子どもを愛することができない母親の葛藤。エリックの場合は、そのあまりにも醜い容姿が原因でしたが、マドレーヌは、それだけではない「愛せない何か」を感じていたのだと思います。今社会問題となっている虐待の問題も、母親のそんな心理を解き明かしていくことに解決の糸口があるのかもしれません。
『ファントム』、もう少し続けます。
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BLOGを拝見して一番に乙武洋匡さんのことを思い浮かべました。医者でさえ母親のショックを気遣ってなかなか対面させてくれなかったのに、初対面で「なんてかわいい子」とおっしゃったとか。私にはできないと思いました。
虐待のこと、それに伴うトラウマのこと、気になっています。
「愛せない何か」…『ファントム』の続きを楽しみにしています。(でも、自分で読むかも(笑))
乙武さんはすばらしいですね。やはり母親もえらい方だったのですね。
ファントム、ぜひ読んでみてください。母親への複雑な感情がオペラ座まで連なっていきます。
トラックバックありがとうございます。
私も『オペラ座の怪人』の映画を見てからすっかりはまり、原作やこの『ファントム』も読んでいます。映画の若いファントムもいいけれど、『ファントム』のエリックはすごく大人だし人間的魅力にあふれていると感じます。だからこそ、彼の背負った悲劇が切ないですよね。
コメントいただきありがとうございました。
私は今の「オペラ座の怪人」はまだ見てないのでこんなことを言うのはおこがましいのですが、確かに『ファントム』を読んでからは、映画のエリックは若すぎるのでは?と感じていました。『ファントム』のエリックは本当に人間的魅力にあふれていますね。いい意味でも悪い意味でも。