カクレマショウ

やっぴBLOG

「ショートバス」─なんてやさしい映画だろう。

2008-02-11 | ■映画
SHORTBUS
2006年/米国/101分
監督・製作・脚本 ジョン・キャメロン・ミッチェル
撮影 フランク・G・デマルコ
音楽 ヨ・ラ・テンゴ
出演 ポール・ドーソン/ジェイムズ スックイン・リー/ソフィア リンジー・ビーミッシュ/セヴェリン ジャスティン・ボンド

ジョン・キャメロン・ミッチェルの「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」に次ぐ監督第2作。あれもすごい映画でしたが、今回はますます挑発的な内容となっています。冒頭から数分のシーンがあまりにもすごいので、これは単なるポルノだ!と息巻く人もいるようです。私には、限りなくやさしさに満ちあふれた映画、に思えました。

「ショートバス」とは、米国の黄色いスクールバスのうち、肢体不自由児、精神障害児、あるいは天才児など「特別ケア」が必要な児童のための小さなスクールバス車体の短いバスを指し、様々な問題を抱える子ども用なのだそうです。映画の中で、一度だけこのショートバスが走る場面がありました。ジェイムズとジェイミーのゲイ・カップルが、カウンセリングを受けにソフィアのもとを訪れるシーンです。二人を背後の木陰からそっとうかがうジェイムズのストーカー男。その前を一瞬通り過ぎるのがショートバス!

この映画の「ショートバス」は、様々な性的嗜好を持つ人々が楽しむことができるサロンの名前ということになってます。誰にも気兼ねすることなく、人々が体を重ね合わせ、心を解き放つことができる場所。決して癒されることのなかったヘドウィグに対して、ジョン・キャメロン・ミッチェルは、今回は誰もが心休めるところを用意してくれたかのようです。

「ヘドウィグ~」で、“The Origin Of Love”のバックを彩っていた不思議なアニメ、あれを手がけたジョン・ベアという人が、今回も心温まるアニメーションを見せてくれます。ニューヨークの街並みのジオラマ。色合いが何ともいえず柔らかく、そして暖かい。ラストに出てくる、停電した街に再び明かりが灯っていく象徴的なシーンなんか、思わずじーんとさせられます。

同性愛というのは、私には理解できないたぐいのものだと思っていました。ただ、そういう人たちがいることは認めるし、尊重もしたいと思っていました。でも、この映画を見て、自分には決して「ない」性癖だけど「理解する」とか、あるいは「どうしても理解できない」とか、そういうレベルの問題じゃないのかもと思いました。つまり、頭で解釈して、「理解」する/しない、ではなくて、何というのだろう、直感的に「わかる」/「わからない」というふうにとらえるべきなのではないかと…。「わかる」/「わからない」という時には、少なくとも相手の気持ちとか心情を読み取ろうとする力が働いているわけですが、頭で「理解」するのは、相手の気持ちはお構いなしでも可能です。勝手に解釈すればいいのですから。

ま、同性愛だけでなく、いろいろ出てきますが、とにかく、心と体は切り離せないし、しかもその絡み具合ときたら、あまりにも複雑すぎだということですね。それを少しでも解きほぐそうとして、人は人を愛するのか。“The Origin Of Love”で歌われるように、神様に引き裂かれた「かたわれ」を探して。

DVDの特典映像を見ると、この映画は出演者をネットで募ったのだそうです。その結果、40人が応募してきた。誰を選ぶかは最終的に監督とキャスティング担当が決めるとしても、その際、応募者がお互いに応募してきたビデオを見て評価し合うというプロセスがありました。で、選ばれたのは9人。彼らは撮影に入る前に、何回かのワークショップでストーリーをつくっていったのだとか。「作品としての映画だけでなく、その製作プロセスも大切にしたい」とジョン・キャメロン・ミッチェルは言う。確かに、これだけ出演者が手間をかけて練り上げた映画は少ないでしょう。ジョンはあくまでも「役をつくる」ことにこだわりますが、「役」とは言え、これだけ内面をえぐりだされると、演じている本人の経験やものの見方が「役」に重なってくるのは当然でしょうね。特典映像には、そういう具体的なシーンもいくつか出てきて興味深い。

最後のシーンで、ショートバスのマダム役で登場するジャスティン・ボンドが歌う“In The End”には、本当に泣かされます。静かに、やさしく、暖かく…。そして、ラストはマーチ!うん、やっぱりこの映画の締めくくりには楽しく軽快なマーチがふさわしい。苦しいことや悲しいことはあっても、やっぱり笑顔が人の心を癒すのです。


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