カクレマショウ

やっぴBLOG

吉本新喜劇─大阪弁の「遊び心」

2010-01-06 | ■テレビ/メディア
なんばグランド花月の売店で売られていたお土産のクッキーに、

「大阪名物 吉本新喜劇を見てきました。めっちゃおもしろかったです。元気になって帰ってきました。」

というフレーズが踊っていました。そのあとに小さく、「今日はこのくらいにしといたろ」(池乃めだか)。

「○○に行ってきました」系のお土産って、あまりにもお手軽すぎるのでふだんは手を出さないのですが、今回ばかりはつい思わず買ってしまいました。

本当に「元気」をもらったような気がするので。

吉本新喜劇をナマで初めて見ました。演し物は、「狙え!シャッターチャンス!」。おなじみ・花月旅館に、次の市長の座を狙う二人の立候補者(池乃めだか・島田一の介)がダブルブッキング。それぞれの奥さんも交えて、旅館の主人(烏川耕一)、従業員のバタヤン(川畑泰史)らが繰り広げる珍騒動。もう、最初から最後までずっと笑いっぱなしでした。

見ているうちに気づいたのは、基本的に、漫才を芝居仕立てにしたのが吉本新喜劇なんだということ(当たり前か…!)。役者たちのセリフは、要するに「ツッコミとボケ」の積み重ねなのです。で、ボケの定番の一つでもある「ひっくり返り」(?正式にはなんて言うのかわかりません)も、しつこいほど出てくる。直接会話に絡んでいなくても、舞台に出ている全員がひっくり返る(しかも何度も何度も)というのがおきまりのパターンなのですね。

隣に座っていたナニワのおっちゃんたちが、いかにも楽しそうに笑い転げていたのが印象的でした。こういうのが「文化」の違いなんだろうな。たぶん、おっちゃんたちは、月に何度かはこうして劇場まで出かけて、ナマのお笑いを楽しんでいるのでしょう。そういう「文化」は少なくとも、青森にはない。

『大阪人のプライド』(本渡章、東方出版)という本に、こんなことが書いてありました。

 遊び心は笑いに通じる。大阪人は笑いのセンスにたけいているといわれるけれど、それは大阪弁そのものに、やわらかな「遊び心」があるからだ。

この前、早瀬昇さんもおっしゃっていたのですが、大阪人の会話は常に「オチ」を期待されるというのはよく聞く話です。何か話を始めたら、最後は「オチ」なきゃあかん。「オチ」がない話は「なんやそれ」ということになってしまう。多少おおげさだとしても、この話は、大阪人がいかに「笑い」を好きかということの証でしょうね。確かに、テレビで見たことがありますが、たとえば、街で道行く人に「写真撮ってもらえませんか」と言って、カメラの代わりにコンニャクを渡す。東京の人には一瞬で引かれてしまいますが、大阪の街では、ほとんどの人がコンニャクを受け取って、「ハイ、チーズ~」とか言ったあとで、「コンニャクやないかい!」とオトす。コンニャクを受け取った時点で、既に大阪人の「遊び心」がうずいているわけですね。で、自分に求められている役割をしっかり演じてくれる。

そういう「遊び心」を凝縮したのが漫才であり、新喜劇なんだから、面白くないわけがない。

『大阪人のプライド』では、「大阪弁の論理」は「反まじめ」だと書いています。「不まじめ」じゃなく、「反まじめ」。「不まじめ」は「まじめ」を否定するけど、「反まじめ」は「まじめ」を否定しない。逆に、「社会が「まじめ」なだけではぎすぎすと住みにくくなるところをほぐしてくれる」。大阪弁が「反まじめ」だとすれば、対極にある「まじめ」は、もちろん標準語です。で、「反まじめ」の肝となるのが、「遊び心」。

なるほどねー。「まじめ」と「反まじめ」か。同じように、いろいろな言葉に「反」をつけてみると面白いかもしれませんね。一生懸命を否定しない、反一生懸命。がんばることを否定しない、反がんばる。努力を否定しない、反努力…とか。

もちろん、大阪人もいつもいつも「遊び心」で生きているわけでもないでしょう。この本にも書いてあります。大阪人も、論理的なことを考えるときには標準語で考える…って。そういう使い分けができるのが大阪人の特徴だという。でも、標準語で「まじめ」に考えていると疲れてしまうので、ふだんは大阪弁で思いっきりしゃべくり、おちょくり、ツッコみ、ボケる。大阪人は、そういう「遊び心」が、大阪人以外の人より、多めにインプットされているのですね。

もう一つ思ったのは、大阪弁の「やさしさ」です。他人を徹底的におちょくっておきながら、最後は救ってあげることを忘れない。この本には、「はよせんかいな」という言葉が例として挙げられています。つまり、「せんかいな」という言葉には、「「~せんかい」という命令と、自分と相手が同じ気持ちであることを確かめる「な」が共存する離れ業をやってのけている」として、「大阪弁には相手に対する異なる姿勢をひとつの言葉に何くわぬ顔で両立させ」ているとする。確かに、大阪弁での会話は、標準語でのそれより、喧嘩になることが少ないような気がしますね。

吉本新喜劇。池乃めだか、内場勝則、Mr.オクレ、それにチャーリー浜! それぞれにキャラが際だつ芸人さんたちによる大阪弁の「遊び心」を十分に堪能できました。そして、劇場をあとにする頃には、背中にしょっていたいろんな「しがらみ」が、すっと消えていくような気がしたものでした。

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